しかし、その前に舞香が立っている。


「優子、彩音も来たんだ」


驚くことなく微笑む舞香の服が、血で汚れていた。


それを見た途端、血の匂いが鼻をつく。


「た、達実⁉︎」


「大丈夫だよ、向井くんなら」


「でも__」


「ちゃんとこれまで通り、シェアできるから」


舞香お得意の『シェア』は、当初ほど華やかに聞こえない。


舞香が口にすると、その言葉は鎖のように私の体と心を締め付ける。


ちょっと一口ちょうだいなんていう、軽いものじゃないからだ。


「達実!達実⁉︎」


どれだけ大声で呼んでも、達実は動かない。


ベッドの横でうつ伏せに倒れたまま、ぴくりとも動かない。


「そんなに慌てなくても大丈夫だから」


「なにが大丈夫なのよ⁉︎」


「半分こしたから」


「えっ?」


「だって優子、私が向井くんをシェアする番になると、怖い顔するでしょ?」


「それは__」


「だからね、いいこと思いついたの」


そういえば、舞香はさっきからずっと両手を胸元で合わせている。


ひな鳥を柔らかく包み込むように__?


「半分こすればいいんだって」


「なに、言ってんの?」


「はいこれ、優子の分だよ?」


そう言って舞香は、ゆっくりと手を開いた。