安奈の気に触ることはしない。


向井くんの視界に入らない、向井くんを視界に入れない。


その他もろもろを忠実に守り、舞香は少しずつクラスに溶け込んでいった。


初めこそ睨みをきかせていた安奈も、向井くんに告白してフラれた女子をいたぶるのに忙しく、問題が起きることなく、私もホッとしたけど__。


「ねぇ、どうして彩音はお昼を食べないの?」


ある日、2人でお弁当を『シェア』していると、舞香が言いにくそうに尋ねてきた。


たぶん、ずっと気になっていたんだろう。


「ダイエットしてるって言ってたけど、たぶん違うよね?彩音、すごく痩せてるし」


「うん、まぁ」


「なにか理由があるんでしょ?でも友達なら、一緒に過ごすべきじゃない?3人でシェアすればいいんだし」


と、舞香はよく『シェア』と口にする。


けど、この問題はそんなにオシャレなワードでは解決できないんだ。


「もしかしてさ」


そこまで言って、舞香が言葉を切った。


言おうか言わまいか悩んでいる。そしてそれは、恐らく当たっている。


「もしかして、彩音の家って__?」


「うん。お父さんが居ないし、兄弟が多いから」


それだけで、舞香は察したようだ。


「そうなんだ」と頷いたまま黙り込んでしまった。


そう、彩音の家は貧乏だった。