桜が春を、連れてきた。
春は僕を、連れてきた。
秒速五センチメートルで
花弁は静かに踊りだす。

フルートとハープのピンクの音色が入り交じる。
桜の花とセミロングほどの黒い髪が交差する。

振り向きざまの、ピンクに染った頬に、
僕は胸の鼓動が早くなる。

不整脈か?いや違う。
心筋梗塞?いや違う。

これが一目惚れって、やつか。
そうか、そうか。これが。

僕は意図せず、目で追ってしまう。
風でなびく、膝上程のボックススカート。

意地悪な風は、
僕に秘宝は見せてくれないが、
僕には悲報を聞かせるみたいだ。

『待った?』
『全然待ってないよ。』

どこからともなく現れた、謎の怪盗。
こうして姫は攫われていく。

あぁ。そりゃそうだ。
あんなに可愛い子にいないわけが無い。

誰かが言った。
『自分に好きな子ができるように
好きな子にも好きな人だっているはずだ』と。
その通りだ。

儚い気持ちは
桜のと共に
散るのだった。