私の生活スタイルはこうだ。

朝、小鳥の囀りと眩しい朝日で目を覚ます。

彼が作っておいてくれた朝食を食べる。

暇なので掃除をしたり、洗濯をする(完全セルフサービス制である)。

そのうちに昼になるので昼食をつくって、食べる。

午後は大抵ゴロゴロしている。テレビは付くけど、戦争のことしかやっていない。

あとは、ホテルに元からあったのか彼のなのかは知らないが、文庫本を読み漁る。

だからだんだんとロステアゼルムの言葉が分かってきた。今まで簡単な会話しかできなかったが、これで彼に口答えすることもできる。

そして、夕飯を作る。最近はこの時間帯に彼が帰ってきて、一緒に夕飯を食べる。

夜は彼の機嫌によって抱かれたりそのまま寝れたりする。

そしてまた、朝を迎えるのだ。



こんなもんだ。つまり、何が言いたいかというと、暇。

……私はある夜、意を決して彼に訴えた。



「あの……」



すると、珍しく言葉を遮られた。



「ヴィゼルだ」



「……ヴィゼル、様」



「何だ」



「昼、暇です」



単語な会話なのは許して欲しい。以前よりマシになったとは言え、まだまだお勉強中ですもの。



「……そうか。ホテルの中だったら出歩いても良い。その代わり、見張りをつける」



「そしてその代償に貴様は今日私に抱かれる」



……ヴィゼル様、それはいくら何でも高いです。高杉晋作です。

……誰だろう、それ。



でも部屋の外には興味があったので、心を無にして頑張った。

一つ、気付くことがあった。全然無じゃなかったね。

──彼は、決して乱暴には犯さないのだった。



                     ♦



翌日。

目が覚めた。

大きく伸びをすると、クスッという笑い声が聞こえた。

──何?! 誰?! 誰かいるの……?

横を見ると、知らない青年が椅子に座ってこちらを見ていた。



「おはようございます。よくお眠りでしたね」



だ、誰この人。

肩に付くか付かないかくらいの銀髪に、蒼い瞳を持った青年。

綺麗だし物腰が柔らかそうだけど、油断は出来ない。



「あ、あなたは……?」



「俺はヴィゼル様の部下で、ヨシュアと言います。貴女の護衛で参りました。以後お見知りおきを」



ああ、護衛見張りね。



「梨花です。えっと、朝早くからお疲れ様です」



私はベッドに腰掛けて、ぺこりとお辞儀した。



「いえいえ、朝から可愛い寝顔を拝見できましたので、俺としてはラッキーです」



あー……

このタイプに弱いのです私。

恥ずかしくて何も言えなくなる。



「ここに来て、どうですか? 不自由などありませんか?」



微笑みを浮かべてヨシュアさんが聞いてくる。

実際にはおおありなんだけど、生きていられる以上、贅沢は言うまい。



「大丈夫です。強いて言えばヴィゼル様に抱かれるのが嫌です」



するとヨシュアさんはへぇ、と呟いた。



「意外ですね。あの方が嫌がられるなんて珍しい」



「そうなんですか……」



「ヴィゼル様は容姿も地位も良いですから。あと分かりにくいですけどかなり優しいお方ですよ。女性には人気です」



うーん……そうなのかぁ。



「じゃあ私は女性じゃないのかもしれませんね」



少し笑ってヨシュアさんが続ける。



「まぁ、珍しいのはヴィゼル様の方もですけどね。彼がここに女性を連れてくるのは初めてです。一体何を思ったのか……一目惚れですかね」



それはないでしょう、絶対。



「誰でもよかったのではないですか? ただそこに私がいただけで」



そう言うと、ヨシュアさんはかぶりを振った。



「あの方は女性を助けることはすれ、連れては来ません。俺が見聞きした限りでは、あの方が人を殺しているところを見たことがないですね。いつも物資を与えて逃がしてやるのです。ロステアゼルムの陸軍大将なのに、ね」



「え」



「……ご存じなかったですか? 陸軍大将」




うっそでしょ……あの人そんなに偉かったの……?

陸軍大将、または将校。

ロステアゼルムでは、大統領や大総統みたいな役職の人がおらず、今政治を動かしているのは陸軍大将または将校だと教えられた。

ちなみに、私は勉強があまり得意じゃないので、大将と将校の違いは分からない。とりあえず偉い人である。

多分、今は陸軍として戦っているから政治は別の人に回っているのだろうけど……

つまり、ヴィゼル様は国のトップというわけだ。

しかも人を殺していない? にわかには信じられない。



「……知らなかったです……」



どうしよう。殺される気がしてきた。



「そうでしたか。ヴィゼル様が『面白い』と仰っていた理由が分かりました」



「いえ……あの……はい、すみません」



自分は一体なにに謝っているのだろう。

するとヨシュアさんにクスクスと笑われた。



「俺はヴィゼル様が、梨花さんをただ面白いだけではなく、可愛いとも思っているように見えましたよ。いつもより少しはっきりと仰っていましたし」



や……あの……迷惑、です。



「……梨花さんは、ヴィゼル様が嫌いですか?」



「偉い方にこんなこと言っていいのか分かりませんけど、いきなり襲ってくる人は嫌いです」



今ので優しい人(っぽい)ことは分かったけど、それと好き嫌いとは関係ない。



「そうですか……うーん、本格的にヴィゼル様の様子がおかしいですね。後で聞いてみましょう」



さて、とヨシュアさんが立ち上がった。



「まだお昼には早いですし、外に行きましょうか。梨花さん」



「よろしくお願いします」



未知なる世界に心が躍った。