あたしたちは、校舎に背を向けた。遊具も何もなくなった、乾いた校庭を歩いていく。校舎が取り壊された後、ここがどうなるのか知らない。あたしはもう二度と、ここへは足を踏み入れないかもしれない。

 真節小が好きだった。古びた校舎が好きだった。たった四人で占領した教室が好きだった。今となってみれば信じられないくらい、毎日、笑ってばっかりだった。ただただ楽しかった。

 あたしが初めて真節小の校舎に入ったのは、始業式の日じゃなくて、引っ越してきた当日、三月の終わりだった。
 小近島への引っ越しは、運送会社の管轄外だった。代わりに、真節小に関わるいろんな人が総出で手伝ってくれた。その中に明日実と和弘の家族もいた。

 荷物の運び込みが一段落した後、明日実と和弘が、あたしと父を連れて、校舎の中を案内してくれた。まだ良一が来る前だったから、全校児童は六人。全員が兄弟姉妹みたいなものだと、明日実と和弘は言った。広すぎる校舎は、探検するにはぴったりだった。

 なくなってしまう。大切だったものが。
「何でだよ……」
 悪いことをしたから取り上げられるとか、そんなんじゃない。誰も何も悪くなかった。ただ、そういう運命だからあきらめなければならないのだと、いきなり突き付けられた。失いたくないものを失う道へと、突然、放り込まれた。

 どうして? 何で?
 繰り返したって、仕方のない問いだ。でも、だけど、胸の中に熱いものが渦巻いている。せり上がってくる感情で、喉の奥がゴツゴツして、鼻がツンとする。

 泣きたくない。泣くもんか。泣くためにここへ戻ってきたわけじゃないんだ。
 あたしは振り返る。巨大なペンチの重機が、キャタピラを転がして、校舎に近付いていく。

 サヨナラ。
 あたしにたくさんのものをくれた、あたしの大切だった場所。
 サヨナラ。サヨナラ。サヨナラ。
 あたしは泣かないから。