「ここだけの話なんだけど、遊ばれた女性のひとりがお相手の前に現れて『あなたの彼に弄ばれた。私だけじゃなく、彼はたくさんの女と遊んでる』ってぶちまけたらしいわ」

「それはすごい。私にはそんな度胸ないな」

「普通なら本人に直接怒りをぶつけるべきよね。でもそれ以上に、ふたりが幸せになるのが許せなかったのね」

「まぁ、その気持ちもわからなくはない、かな」

裏切られたわけだし、とても傷ついただろう。許せないと思う気持ちは私にもわかる。

「いい気味よ、女を敵に回した罰だわ。結婚前に発覚したのが幸いね」

爽子はもっともらしいことを言ってミネラルウォーターを口にした。

曲がったことが大嫌いな爽子らしい意見に、私も力強く同意する。

「日下部さん」

その時背後から誰かに呼ばれた。

振り返るとスクラブの上から白衣を羽織った篠宮先生がいて、私の鼓動は早鐘を打った。

「お、お疲れさまです」

「ああ、お疲れ。ところで、朝の件はなんだ?」

「朝の件、ですか……?」

篠宮先生はニッコリしているけれど目が笑っていない。

今日の朝は篠宮先生の患者さんのオペはなかったし、回診だってこれからだから指示受けのミスをするはずもない。

それなのに、私、なにかしたの……?