「ゆきちゃんがイケメンってどういう意味? ゆきちゃんは女の子じゃないの?」

スッと片手を書架から外して頬に骨ばった指を滑らせると、そのまま顎を指で掬い上げた。


ヒュッと息を呑む。
長いまつ毛に縁取られた綺麗な目が真っ直ぐに私を見据える。

ドクンドクンドクンと心臓が狂ったような音を立てる。


「……答えて、ナナ」


甘さのないゆったりした声にゾクリと背中が痺れた。暑くもないのに身体に嫌な汗が伝う。


「ナナはゆきちゃんを捜しに行ってたのか? 俺に黙って?」


完璧な容貌が近づき、耳元で囁かれてピクリと肩が跳ねた。静かなその声に恐いくらいの怒りを感じた。


「ち、違うよ!」

怯えたような声が出てしまったのは仕方ないと思う。


「へえ、なにが違うの? ナナはこの数日間、ずっと嘘をついてたんだよな? 俺をからかって楽しかった?」

嘲るような言い方をされて胸が詰まった。


いつも甘さをたたえた目は仄暗い色を滲ませている。確かに嘘をついたけれど、からかうためじゃない。


「違う、ゆきちゃんを捜しに行ってたわけじゃ……!」


その瞬間、強引に胸の中に閉じ込められ、必死に紡いだ言葉は最後まで言えなかった。
視界が彼でいっぱいになる。


「……ナナは誰にも渡さないって言っただろ?」