ペースを乱されて焦っているのは私ばかりだ。


本当は嫉妬していると、あなたを独り占めしたいと口にできたらどんなに楽だろう。

言い訳もなく主張できる立場になれたらどれだけ幸せだろう。


「……心配はしたよ……転入生について教えてくれないのはすごく可愛い女の子だったからかな、とか……」

少しだけでいいから身勝手な本心を知ってほしいと願い、しどろもどろになりながらも拙い気持ちを精一杯伝える。


『……ナナ、それは反則。俺、今、桜汰と帰ってるんだぞ?』

なぜか普段よりワントーン低い声で返事が返ってきた。

「え、うん」


それがどうかしたのだろうか。


『……なんで今そんな可愛いこと言うんだ? 抱きしめられないだろ? 俺を困らせたいの?』

その色香のこもった口調に頬がカッと熱をもつ。切なげな声が耳朶を震わせる。


「か、可愛くないからっ」

ドッドッドッと鼓動がうるさく暴れだす。

『……仕方ないから明日まで我慢する。その代わり明日は抱きしめて離さないけどいい?』

とんでもなく甘い魅惑的な台詞に、熱い頬を片手で覆いながら瞬きを繰り返す。


「よ、よくない」
『冗談。じゃあな、ナナ。また明日』

そう言って楽しそうな声を響かせて通話が切られ、早まった鼓動を持て余しつつ、しばらくスマートフォンを握りしめていた。


ああもう、たったこれだけの言葉で翻弄されるなんて、この恋は重傷だ。