「ちょ、ちょっと、本当にもう、離して!」

叫ぶと私の腰から手が離れて、セーターを被せられた。ふわりと身体が雪華の香りに包まれる。


「ナナの可愛い仕草を見るのも俺だけでいいんだよ」
「だから可愛くないってば」

必死で否定するとクスクス楠本くんが声を漏らす。


「お姫様は無自覚だから大変だな、雪華」
「まあな。ナナ、手を出して。身体が温まるまで着てろよ」

セーターを着た袖口を長い指で捲ってくれる。骨ばった長い指が手首に触れ、その優しい手つきに胸が熱くなる。

「い、いいよ、外に出たらすぐに暑くなるから」


制御できない想いを誤魔化すように早口で言うと、セーターを着たせいで崩れてしまった髪が雪華の手でそっと梳かれた。

「俺が心配だから着てて」


……そんな言い方をされたら断れないって知ってるくせに、本当に策士だ。


「相変わらずの過保護だな。お前、そんなに世話焼きだった?」
「ナナだから、だ」

キッパリ言い切って、再び指を絡めてくる。


「俺のセーターを着てるの嬉しい。やっぱり可愛い」

どこのモデルかと思うくらいに綺麗な面立ちをした人にこれだけ『可愛い』を連発されてどうしていいかわからない。
もう羞恥に泣きそうだ。


周囲は悲鳴を上げるのも忘れて雪華の一挙一動に見入っている。
その光景すら居たたまれない。

唯一頼りになりそうな楠本くんはなにが面白いのかクスクスずっと声を押し殺して笑っている。