泣きそうになって無意識に唇を噛むと至近距離から覗き込まれた。

「なんでいきなりそんな可愛い表情をするの? 抱きしめたくなるだろ」

そう言ってふわりと私の肩に自身のセーターをかけ、セーターごとぎゅっと腕の中に抱きしめた。


「ち、ちょっと……!」

咄嗟に発した声に勢いはまったくなく、言葉にできない切なさで胸が痺れる。

トクントクンと少し速めの鼓動が薄いシャツ越しに伝わってくる。


「手が冷たい。ナナ、クーラーで身体冷やしすぎ、これ着て」

耳元で囁いて半袖の下のむき出しの腕に長い指でそっと触れた。触れられた部分がピリと電流が走ったかのように痺れた。


絡めた指が離された理由がわかった。

冷えている私の身体にセーターを着せるためだったんだ。


胸の中から綺麗な目を見つめると、額に柔らかなキスを落とされて頬がカッと熱くなる。


「……大切なお姫様を構いたくて、触りたくて仕方ないのはわかるけど、ここ廊下だから。そもそも俺を忘れてない?」

突如割り込んだ冷静な声にハッとしてもがく。その反応を予想していたのか背中にまわされた腕にグッと力がこめられる。


「桜汰、ちょっとは遠慮しろよ」
「ナナちゃんが見世物になるのを阻止してあげたのに、酷い言い草だな」

ねえ、と端正な面差しを向けられる。


「見るな、ナナが減る」
「その溺愛、重っ」

鼻白む楠本くんを雪華は堂々と無視する。