「今日も一日お疲れ様、帰ろっか」


優しく言い、当たり前のように指を絡めてくる。伝わる体温と感触に瞬時に鼓動が暴れだす。

今日、梨乃は図書委員会のため先に帰ってほしいと言われている。


「……ねえ、本当にふたりって付き合っていないの?」

クラスメイトのひとりに確認された。

「え、あの、うん」

実際に告白はされていないし、堂々と答えればいいはずなのだけど、本人を前にすると居たたまれず小声になってしまう。


「酷いな、俺はそのつもりなのに?」
「きゃあ、やっぱり! もうナナったら、素直にならなきゃ氷室くんが悲しがるよ」


素直に真実を言っているのに!


また明日ね、と薄っすら頬を染めて陽気に手を振るクラスメイトの姿に脱力する。


どうしてそんな嘘を言うの? 
告白すらされていない私が恋人なわけがないのに。
そもそも雪華が好きなのはナツさんでしょ?


悲しみと切なさを込めて好きな人を見つめると、妖艶な眼差しを向けられる。

「……なんであんな誤解される嘘を言うの?」
「本心だけど?」


しれっと言い放ち、絡めた指がスッと外される。

その瞬間、心が氷塊をのみ込んだように冷たくなり不安でいっぱいになった。


……まさか怒った? 


誤解される行動はやめてほしいと散々言っていたのに、いざ触れていた温もりが離れていくと心細くなる私はとても我儘だ。


この距離感が『友だち』としては普通だというのに、私の心は支離滅裂で欲張りだ。


自分の気持ちを伝える勇気もなく、離れる覚悟ももてない。周囲に冷やかされたら曖昧に真実を告げているだけの私はとても狡い。