……雪華って、まさか、まさかだよね?


息を呑んで立ち上がると、ガタンと椅子が大きな音を立てた。

それでも起きる気配がない男子生徒の真横に屈みこみ、恐る恐る顔を覗き込む。

陶器のように滑らかな肌に綺麗に整えられた眉、伏せられた目を縁取る睫毛は細く信じられないくらいに長い。
真っ直ぐな鼻梁、引き締まった薄い唇……すべてのパーツが完璧な形をしている。


目を閉じていても端正な容貌が簡単に想像できる。


やっぱり……この人って冬の王子様?


この学園には『冬の王子様』と呼ばれる極上の美形男子がいる。

間近で見たり、言葉を交わしたことはないが、噂によると女子顔負けの中性的で美麗な容貌は学園の女子生徒を虜にしているそうだ。

さらにその人気たるや校内にとどまらず、他校にも熱烈なファンがいるらしい。



王子様の名前は氷室雪華(ひむろ せっか)という。



綺麗で幻想的な響きに、初めてその名前を耳にした時は気分が高揚した。

というのも幼い頃から北海道にある母方の祖父母の家で雪遊びをしていた私は雪が大好きで雪にちなんだ言葉にとても興味がある。

ここ東京では滅多に積雪はせず寂しささえ覚えてしまう。


雪華、と呼ばれる男性はそう多くないうえに、眠っていてもわかるこの極上の外見と女子生徒たちの不思議な態度……きっとこの人が冬の王子様だ。

冬の王子様の親友もものすごくモテる美形だと小耳にはさんだ記憶がある。

きっと楠本くんがそうなのだろう。