「もう勝手に帰ったり、電話に出なかったりするのは禁止。今度したら……」


耳元に再び口元を近づける。吐息が耳をかすめた。


「……キスするよ?」


艶やかないつもより低い声にドキン、と心臓が壊れそうな音を立てた。


「じ、冗談でしょ?」
「ナナに嘘は言わないよ?」


真剣な目で見据えられて頬に一気に熱が溜まる。

わかった?と念押しされて抗えきれずにコクコクと頷いた。


「仲直りもできたし、学校に行こっか」

さっきまでの雰囲気とは一転した明るい口調で言って、私を解放するけれどその指は私の指にがっちり絡まっている。

その手を見つめて軽く引っ張ると、雪華が足を止めて怪訝そうに尋ねた。


「ナナ?」
「……昨日、先に帰ってごめん。雪華が……遠くに行ってしまうような気がして恐くて……ナツさんに嫉妬、したんだと思う」


もう認めるしかない。
カッコ悪くてもなんでもこれが本心だ。この人には誤解されたくないし傷つけたくない。


正直に言うと、彼の耳がほんのり赤く染まっていた。

「ナナ……それ、わざと? っていうか、意味わかってる?」

手を繋いでいないほうの手で自身の目を覆いながら問われた。

「……わかってるよ?」
「ああ、もう勘弁して。無自覚なの、それ? もうナナがそのつもりなら、遠慮しないから」

そう言って目元を覆った手を離し、繋いだ手を自身の口元に運んでそっと口づけた。

手の甲に触れる柔らかな感触に胸がキュウッと甘く締めつけられて一気に熱がこみ上げる。