正門に現れたのは雪華だった。


離れていてもわかる、目を惹く抜群の容姿は間違いようがない。

既に制服に着替え終わったようで、長めの前髪をイラ立だし気にかき上げながら周囲を見回している。

その様子を下校中の女子生徒たちが羨望の眼差しで見つめていた。


パンツのポケットからスマートフォンを取り出し、どこかに電話をかけ始めた。

耳にスマートフォンをあてながらも、目は忙しなく周囲を見つめている。

どことなく焦りとイラ立ちを感じている姿は珍しい。


「王子様、見ちゃった!」
「やっぱりカッコいいよねえ。誰か捜してるのかな? あんなに焦った姿、初めて見たよ」
「いいなあ、私も王子様に捜されたい!」

すぐ近くを通り過ぎていく女子生徒たちが思い思いに話している。


あんなに焦って誰を捜しているの? 


制バッグを握る指に無意識に力が入ったその時、スマートフォンの振動を感じた。

制バッグの中からスマートフォンを取り出し、画面を見ると雪華の名前が表示されていた。


どうして電話をかけてくるの?


万が一に備えて言い訳は決めてあったし、きっと迎えに来ないだろうと思っていた。

なのになぜ。


まさか……あそこで必死に捜している相手は私、なの?


スマートフォンを握る指が震える。

今は、今日は、一緒に帰る勇気が持てないから、この着信に応答はできない。


心の中で謝罪をしてギュッと目を瞑り、その全てを遮断するかのようにスマートフォンを制バッグに入れ、そのまま踵を返して駅まで向かった。