「うん、ありがとう。梨乃がいてくれてよかった」

泣き笑いみたいな表情で返事をすると親友が明るく言う。


「私はいつでもナナの味方だから。しんどくなったり悩んだらきちんと話してね。もちろんナナの気持ちはあのふたりに内緒にしておくから。思い出の女の子が見つかって、ナナの気持ちが受け入れてもらえたらいいね」
「……うん」

優しい言葉に甘えるように肩に凭れて頷く。


階上の踊り場にある窓からは明るい日差しが差し込み、その光線が階下にいる私たちの近くまで届く。

キラキラしたその光はほんの少し心を明るくしてくれた。


目の前の廊下には誰も人が通っていない。
しばらくそこに座り込んで他愛ない話をしていると梨乃が腕時計を見て立ち上がった。

「課題をしに戻ろうか?」

その声に明るく同意する。



教室に戻って課題を終え、時間内になんとか教卓の上の箱に提出した。

「ねえ、王子様が帰りに迎えにきたらどうするつもり?」

席に戻る途中、尋ねられた。

「今日は私のせいで五時間目に遅れているうえに、着替えていないし、忙しくて大変だろうから来ないと思うよ。特別授業があるかもしれないし、一緒に帰る約束もしていないし」

考えつく言い訳を列挙する。

さすがに今日は一緒に帰る自信がない。


目覚めたばかりの恋心の扱いにまだ慣れてもいないのに、本人にどんな顔をして会えばいいのかわからない。

それでなくても想い人の件で心が塞いでいるし、そんなみっともない姿を見られたくない。


「今までなにも約束していないけど勝手に迎えに来てたじゃない。王子様の執着はそんなに甘くないと思うわよ?」

なぜか訳知り顔で言われてしまう。


執着? 
誰に?


「……今日は一緒に帰る自信がない」
「わかった。じゃあ、私が念のためにあのふたりを待っておくから、ナナは先に帰りなさい。もし理由を聞かれたら体調不良で早めに帰ったとでも言っておくわ」

姉のように諭されて頷く。