雪華を好きだから、自分が特別な存在になれないから辛かったんだ。


ああ、だから。
涙が出たんだ。


でもこの恋心は一方通行で、行き場がない。

わかっているのに想いを捨てきれない。


涙が一筋頬を伝う。


「ナナの気持ちなんて楠本くんも私も千帆ちゃんもとっくに気がついていたわよ」
「ええっ」
「見てたらすぐ気がつくわよ。ふたりともものすごくわかりやすいんだから」

ふたりとも?

衝撃的な発言に一瞬涙が止まり、その言葉を訝しむ。


「ナナは氷室くんの大事な存在だって学校中が知っているからね」
「まさか、そんなわけないよ」

思わず反論すると目を細めて言う。

「どうして? 考えてもみなよ。氷室くんはこれまでどれだけの女子に告白されてきた? それなのに幼稚園時代から今日まで、誰ひとり特別に気にかけたり、下の名前で呼ぶ女の子はいなかったんだよ?」
「それはたまたまじゃ……」


下手に期待したくない。期待して自惚れてしまったら違った時のショックに耐えられない。


「好きでもなかったらなんで毎日一緒に通学するの? 教室まで送り迎えしてくれるの? どうしてわざわざお姫様だっこして手当までするのよ?」
「でも、大事な思い出の女の子がいるんだよ……?」


私はその子じゃない。

雪華が想いを傾ける相手は私じゃない。


言い淀む私に大きく息を吐いて、髪を耳にかける梨乃。

「それは否定しないわ。でもその大事、の意味は? 『好きな子』としてなのか『自分を助けてくれた子』、『友だち』色々な場合があるでしょ? 氷室くんにきちんと確認したの?」
「……そんなの恐くて聞けない」