「どうしてさっき泣いたの?」
「……自分でもよくわからない。大事な思い出を話してくれて嬉しかったけど、その子の話をする雪華の目がすごく優しくて……その子が特別なんだって、大事だって伝わってきて……」

話しながら、一旦止まっていたはずの涙がこみ上げてくる。鼻の奥がツンとして、視界がどんどん滲んでいく。


スカートの上から抱えた足には雪華が手当てしてくれたガーゼがぼんやり見え、ツキリと胸が痛む。


「捜して、お礼を伝えたいって言ってた。自分を救ってくれた人だって。見つかるように願っているのに、見つかったらもう傍にいられなくなるかな、一緒に通学できないのかな、とか自分勝手なことばかり考えちゃって……胸が痛くて……」

堪えきれなくなった涙が両目からポタポタ落ちて、床に丸い染みを幾つも作る。


協力するって言ったのに最低だ。雪華はこんなに私を大切にしてくれているのに。


「雪華がその子を一番に想う現実が辛い……そんな気持ちを持っている自分が嫌で仕方ない」

ヒックと嗚咽を漏らす私の背中を親友はそっと撫でてくれた。


「……ナナ、どうしてそんな気持ちになるか、考えた?」

落ち着いた声が隣から響き、少し身体を傾けて私を凝視する。


「……え?」
「氷室くんの姿を見たらドキドキしない? 言われた言葉のひとつひとつが、一挙一動が気にならない? 傍にいたいって思わない? 自分だけを大事に想ってほしいって思わない?」

目の前でひとつひとつ指を折りながら、問いかけられた。