「ナナは座ったままでいいよ」
「なんで?」
「送るから。足、痛むだろ?」

言うが早いか再び横抱きにしようとする。

「手当てもしてもらったし送ってもらう必要ないよ」
「ひとりで教室に返すわけにはいかない。心配だから」


心配の仕方が絶対に間違ってる。


「大丈夫だから! それでなくても私の手当てで授業に遅れてるんだし、早く戻って。本当にごめんね、助かったよ」

慌てて早口で告げる。


保健室は西棟と東棟のちょうど中間地点にあり、お互いの教室にそれぞれが向かうのが一番の近道だ。


今は一刻も早くひとりになりたかった。話を聞いてからずっと心の中が重たくてもやもやして、目の縁に涙がずっと滲み続けている。

怪我をした時でさえ涙は出なかったというのに、どうして今になって涙がこらえきれなくなりそうなのだろう。


「送らせてくれないなら強制的に抱きかかえるけど?」

両手を広げて、しれっととんでもない台詞を口にされて思わず目を見開く。


屈みこみ、秀麗な面立ちを近づけられて一気に心拍数があがる。あと少し身じろぎすれば抱きしめられそうな体勢にゴクリと喉が鳴る。


そんな言い方も心配の仕方も卑怯だ。


「……送ってもらうから、抱きかかえるのはやめて」

苦渋の決断といった表情を浮かべると、手の甲でそっと頬を撫でられた。

「そんな可愛い表情をされると抱きしめたくなるんだけど?」

甘やかに呟かれて言葉を失う。


おかしい、雪華がすごくおかしい! 
以前から過保護で心配性だったれど、こんな風に甘い言葉を言って触れてきたりはしなかったのに、どうして急にこんな態度になるの?


結局、私の指を自身の指にしっかり絡めて雪華が教室の前まで送り届けてくれた。

長く細い指が絡みついて、伝わる熱が体温を上げているなんてきっとこの人は知らないだろう。