「……あ、あの私もナツさんを捜すの手伝うよ。力になれるかはわからないけど!」

誤魔化すように早口で言う。


雪華がこれだけ会いたがって、大切に想っている人だ。せめて協力したい。


「……ありがとう。でも無理をしなくていいよ。もう決めたから、ナナも覚悟をしていて。このままじゃ誰かに奪われそうだから」

強い意思を秘めた眼差しから視線が逸らせない。
まるで私の誤魔化しを見透かしたように言う。


奪われるってなにを?


見惚れるほどの凄艶な微笑みを向けて、首から離れた長い指が私の髪をひと房掬い、あの日のように口づける。

その色香の漂う仕草にまるで捕らわれた獲物になったかのように身体が固まってしまう。


「な、なに……」


狼狽え火照った頬のまま、小さく声を上げる。

この間は威嚇や牽制、嫌がらせみたいな感じだった。


でも今、私たちは友人なのになぜこんな触れ方をするの?


雪華は嬉しそうに口元を綻ばせて私の髪を弄ぶ。


キーンコーンカーンコーン……五時間目の始まりを告げるチャイムがふいに部屋の静寂を破る。

開いていた窓から聞こえていた生徒たちの声も段々と遠ざかり静かになっていく。


「俺の誓いのキス。今度こそ逃がさない。もう後悔はしたくないから」


ポツリと呟く声は、チャイムに紛れて切れ切れにしか届かない。

「今、なんて言ったの?」
「内緒」


そう言って髪を解放し、教室に戻るため立ち上がる。