「……だからさっきの先輩たちは条件が違うって言ったのね……」

ポツリと呟く。


私の名前には『夏』の漢字がないから。


「以前告白された女の子に氏名に『夏』が入っている子を捜している、と伝えたことがあったんだ」

苦々しく言う。きっとそれが噂となり少し間違った解釈で皆に伝わったのだろう。


「その女の子に再会したら、どうするの……?」


一番尋ねたくて、尋ねたくない質問。手を握っている指が震えそうになるのを必死でこらえる。


答えないで、と願うのに答えを欲しがる自分がいる。


聞かなくてもわかるのに、決定的な言葉を言われるのが恐いだなんてどうかしてる。私たちは友人でそれ以上でも以下でもない。


「……変わるきっかけをくれたお礼を伝えたい。それと今の俺の姿を見てほしい。名前をきちんと聞いて、友人になりたい」

友人、という言葉が胸に刺さる。

その言葉を口にする時に雪華がなぜか口ごもった。


「初めてナナと話した時、驚いたんだ。まるでナツのような返答をくれたから」


でも私はその子じゃない。その子にはなれない。


「……成長した彼女がそこにいたのかと、思ったんだ」


切ない目を向けられて喉元に熱い想いがせりあがる。泣き叫びたくなるような衝動にかられる。


握った手を離し、そっと私の首筋に長い指を這わせた。

向かい合う私たちの距離は元々近いがさらに縮めるかのように私を自分自身にゆっくり引き寄せる。