「……その子を捜しているの?」

思った以上に掠れた声が出た。大きく頷かれて、動揺を隠せない。


「でも会ったのは一度だけなんだ。場所はじいちゃんの自宅近くの公園だったから、近くに住んでいたのか偶然来ていただけなのかもわからない」

そう言ってとても悲しそうな表情を浮かべた。


たった一度の出会いがこんなにも雪華の心に残っている。

きっとその女の子は特別な存在なのだろう。


「名前は知っているの?」
「その子は自分を『ナツ』と呼んでいた。『私はナツだから雪とは逆ね』って言ってた」

……だから雪華は告白してくれた女の子に自分の名前をどう思うか聞いていたんだ。試験でもなんでもなく大事な女の子を見つけるための苦肉の策だったんだ。


彼の名前とペアになる『ナツ』、それはきっと季節の『夏』だろう。

私の名前の『七海』にある『ナツ』ではきっとない。


「その日を境に俺は自分の名前が好きになった。この目も冬の季節も、雪も。嫌いなものだらけだった世界をナツが染め直してくれたんだ。それからはからかわれても気にならなくなって、再会した時、立派な男になっていたいと願うようになったんだ」

キラキラと輝く目は少女への愛しさを物語っている。その子がどれだけ救いだったのか、充分に伝わってきた。


……なにを勘違いしていたの?
補佐に選ばれてなにを舞い上がっていたの?


この人には既になによりも大事な女の子がいたのに。
私に向ける『大切』とその女の子に向ける『大事』は全然違う。


私は特別な存在なんかじゃないってわかっていたはずなのに。


どうしてこんなに胸が痛いの? 
なぜこんなに涙が溢れそうなの?