「……痛むか? 俺のせいでごめん」
「雪華のせいじゃないって。どうして謝るの。言ったでしょ? 私がドジをしちゃっただけ」
「直接的ではなくても、元々の原因は俺だろ。……本当にごめん」
「もう、それ以上謝ったら口きかないからね!」

思わず叫ぶと雪華は大きく目を見開いた。


「それは困るな。そんなことされたら俺、ナナになにをするかわからないよ?」

物騒な表現に息を呑むとふわりと口元を綻ばせる。

至近距離から見る整った容貌に鼓動が大きく跳ねた。


抱きかかえられたままの私をすれ違う生徒たちが何事か、と言わんばかりの視線を向けてくる。なかには振り返って確認までされてしまう。

今頃SNS上でこの話題が駆け巡ってそうで恐い。


「俺の胸の中に顔を隠していいよ」

察しのいいこの人には私の考えている内容がわかったようだ。

「え、でも……大丈夫だと思うよ?」
「ナナの可愛い表情を誰かに撮られたくないから。俺の我儘だと思って」

真摯さが混じる妖艶な目を向けられ、収まりかけていた心拍数が再び跳ね上がる。触れられている肌がカッと熱を帯びる。


女子は苦手だと公言しているくせに扱いが上手いなんて狡い。

異性と付き合った経験もなく、好きな人もいない私にはハードルが高すぎる。


「保健室に着いたらナナに話があるんだ」

ほんの少し口を引き結んだ真剣な目を向けられて、黙って頷いた。