「気にしていないし、大丈夫だから」

抱えてくれている逞しい腕を軽く叩く。

「……ナナ?」

先輩たちに注ぐ氷のような視線とは全く違う、労りに満ちた温かな目が向けられる。


「ハイハイ、雪華。ナナちゃんが心配でたまらないのもわかるけどそこまで。とにかく今は怪我を最優先」

いつの間にか隣にやってきていた楠本くんの声が響いた。


「遅い、桜汰」

横抱きにされている姿を見られて、恥ずかしくてたまらないのに雪華は動じもせず飄々としている。


「うわ、痛そう。大丈夫? ここは引き受けるから、保健室に連れて行ってもらいなよ。遅くなってごめんね。用具配布ありがとう」

私の怪我を見て、楠本くんはくるりと身体の向きを変える。


「それと、先輩たち。今回の件はしっかり担任の先生に報告しますよ。後輩に優しくない先輩たちはこれから受験もあるし大変でしょうね」

ニッコリと凄艶に微笑む声はとても冷え冷えとしている。

その言葉に、ふたりの顔色は真っ青を通り越して真っ白に近くなっている。


じりじりと後退りする先輩たちに雪華が追い打ちをかけた。

「ナナに暴言を吐いたこと、きちんと謝れ」
「ご、ごめんなさいっ!!」

ふたりは涙声で叫んで、用具を抱えバタバタと走り去った。


いや、もうそこまで脅さなくても……。