「じゃあ氷室くんみたく、雪に由来がある名前の友達とかはいないの?」
「ない、と思うけど……あ、でも小さい時にゆきちゃんって名前の女の子の友達がいた」


朧気な幼い頃の懐かしい記憶。


あの頃、私は幼稚園児くらいだっただろうか。

どうして今まで忘れていたんだろう?
一度だけ公園で一緒に遊んだ大好きな女の子。


「ゆきちゃん? どんな漢字?」

なにかを期待するかのように、輝く目を向けて尋ねられる。

「……覚えてないの。一度しか遊んでいないから」

小さく肩を竦める。


大きな目に真っ黒のサラサラのショートカットのゆきちゃんとの出会いは偶然だった。

ひとつ思い出すと波のように一斉に鮮やかに記憶が蘇り、懐かしさに胸が締めつけられた。

今どこにいるのだろう。私を覚えてくれているだろうか。


「氷室くんの妹じゃないの、と言いたいところだけど、氷室くんってお兄さんしかいないわよね。しかも『ゆき』っていう名前の女の子は全国に何人もいるし」

ひとりで納得している梨乃を黙って見つめる。どこから雪華のお兄さんの情報なんて手に入れたのだろう。

「そのゆきちゃんは女の子だから関係ないとして、ナナは単純に王子様に気に入られたのかもしれないわね。くれぐれもほかの女子には気をつけなさいよ? なんたって相手はあの王子様だし、変な逆恨みをされる可能性があるから」

親友の忠告に真摯に頷き、彼が大丈夫だと言ってくれた件を伝えた。


「へえ、王子様ってばどうやってお姫様を守ってくれるのかしらね? 見物ね」

なぜか楽しそうな親友を尻目に、平穏な毎日を送れるように心の底から願った。