冬の王子様の想い人

「呼び捨てがいいんだけど?」


くるくると髪を自身の人差し指に絡められ、目が離せなくなる。


「む、無理! 皆がなんて思うか……」
「俺の名前が好きなのに?」

一瞬綺麗な目に浮かぶ悲痛の色。

そんな表情をするなんて狡い。まるで私がいじめているみたいだ。


「せ、雪華……」


蚊の鳴くような声しか発せない自分が恨めしい。


「よくできました」


甘い声が響き、絡めた髪に小さなキスが落とされてヒュッと息を呑む。

「か、髪、なんで」
「柔らかくて、手触りいいな」

優しく呟かれ、思考回路が停止する。


髪にキスされた経験なんてなく、どう反応していいのかわからない。視線をどこに向ければいいのか、困惑する。
言いなりになんてならない、と息巻いていたはずなのにそんな力は欠片も残っていない。

「誰にも文句は言わせないから大丈夫。それと、昨日の慰謝料代わりに委員会で俺らの補佐を頼むな」
「ああうん、わかった……」

呆然としたまま無意識に了承してしまう。

「ありがとう、助かる。言質はとったからな」
「ちょ、ちょっと待って! い、今のはナシ!」
「ダメ、了承しただろ? そういうわけだからこれからよろしくな」

髪を絡めていた指をするりとほどき、ぽんと再び頭を撫でた。


頭上には変わらず明るい初夏の空が広がっている。


「……補佐が目的だったんなら教室で話をしてくれてもよかったんじゃないの?」

恨めしく言うと、一瞬だけ寂しそうな表情を見せる。


「言っただろ? ふたりきりで確認したかったんだ」
「なにを?」
「そのうち話すよ。その時は俺を信じて聞いてほしい」


意味がよくわからないけれど、話してくれるならいいかな……。


あまり深く追求せずに頷くと、彼は穏やかに目を細めて立ちあがった。

「弁当途中だったんだろ。悪かったな、教室まで送る」
「えっ! いいよ、ひとりで帰る!」


ハハッと短く楽しそうな声をあげる彼に再び手を取られて、屋上を後にした。