やっぱり男性なのに綺麗とか、透明感とか言われて不愉快だった? 
でも本心なんだけど……。


「ええっと、ごめん。でも本当に素敵だって言いたくて! それに氷室くんの名前は羨ましいし……」

うまく言葉にできない自分がもどかしい。彼はそんな私をじっと凝視している。


「ハハッ!」


クシャリと端正な面差しが唐突に崩れて、纏う雰囲気が優しいものに一気に変化する。

初めて見るその表情に呆然としてしまう。近寄りがたさが霧散して柔らかくなっている。


「アンタ、いい奴だな……昨日は悪かった」


そう言って眉尻を下げる姿に惹きつけられて、鼓動がドクンと大きな音をたてた。穏やかな表情に胸の中がじわりと熱くなり、言葉にできない温かいものでいっぱいになっていく。


この人、こんな表情もするんだ。


「昨日の話、信じてくれたの? 怒っていないの?」

恐る恐る問うと私の頭にぽん、と優しく触れた。


「ナナは嘘をつかないって信じてるし、怒ってないよ」

元々怒っていなかったんだけどな、と付け足される。


『ナナ』


いきなり下の名前で呼ばれ、さらには頭に触れられて驚きを隠せない。


「な、ナナって……!」
「名前、ナナだろ? 教室にいた友だちにそう呼ばれてなかったか?」

綺麗な面立ちに浮かぶ屈託のない表情に鼓動が暴れ出す。頬が熱い。

「そうだけど、だからっていきなりすぎて!」
「じゃあナナも雪華って呼べばいいだろ?」 

さらりと言われて言葉を失う。