「下の名前は?」
「雪華……くん」

呼び捨てにはできず敬称を付け足す。


冬の王子様のフルネームを知らない女子生徒はこの学校にはほぼいないはずなのに、どうしてそんな質問をするのだろう。


「……どう思う?」
「どうって……綺麗な名前だと思う。雪の結晶、だよね? 儚くて真っ白でなんにも染まらない、そんなイメージかな。この間も言ったけど、氷室くん自身が雪を表しているみたいで似合っている」


名前を知った時からずっと思っていた感想を素直に口にした。雪が大好きな私にとってその名前はとても羨ましい。

骨ばった指の隙間からサラサラと私の髪が零れ落ちた。


「……氷室くんって冬の王子様って呼ばれてるじゃない?」

一瞬逡巡するが、愛称を口に出してもなにも言われないので話を続ける。


「初めて氷室くんの下の名前を聞いた時、その愛称がぴったりだと思ったの」
「……なんで?」

私に向けた目は心なしかとても優しく、先程までの威圧感が若干消えていた。


「皆が言うように無愛想だから?」
「ううん、冬がとても似合う人だから。雪は氷にもなるし、氷室くんの名前にぴったりでしょ? 氷室くんは綺麗だし……なんて言うのかな、透明感がある感じ?」
「……なに、それ。俺、男なんだけど」

彼の表情が強張っていてハッとする。