「……葉山に話があったから桜汰と早めに来たんだ。その件も含めて話したいから一緒に来て」

そう言って私と左手を繋ぐ。久しぶりに触れる大きな手はいつもと変わらない。


「……七海の教室は今日、授業かなにかに使われる予定はあった?」

階段をいつものように上りながら問われる。

「ううん、なかったと思うけど」
「そっか、じゃあ七海の教室に行こう」


予想通り、二組の教室は無人だった。
がらんとした教室内に眩しい日の光が差し込んでいた。

雪華は教室に入ると、教卓のすぐ近くで振り返り、繋いだ手はそのままに私と向き合った。


「……終業式の日、用事があるって言ったの、覚えてる?」

おもむろに話し出す彼を見上げて、軽く頷く。

「あの日、朝はじいちゃんに話を聞きに行って……帰りは七海のお母さんに会ったんだ」


私のお母さんに会った? どうして?


予想外の言葉に目を見開く。


「七海のお母さんに親父から連絡してもらって、会う約束を取り付けてもらったんだ。会社の昼休みに少し時間をもらって話を聞いたんだ」
「そ、そんな話は聞いてないよ?」