ふたりが睨み合った時、ひとりの男子生徒が急いで階段を駆け下りてきた。

さらりと長めの黒髪が揺れる。

「葉山!」
「……雪華?」


葉山さんは雪華を見上げて泣きそうになり、表情をみるみる歪ませた。

踵を返して再び走り出そうとした彼女の前に、別の場所から現れた男子生徒が立ちはだかる。


「待てって、葉山」

男子生徒は葉山さんの右腕を掴んで逃亡を阻止する。


「……楠本くん?」
「ナナちゃん、どうしてここに?」

楠本くんが驚いて尋ねてくる。


雪華には今日、図書室で梨乃と勉強すると事前に話していたし、今日登校する旨も聞いていた。

お互いに同じ校内にはいるけれど、それぞれの予定があるため会う約束はしていなかった。

特進科の授業は午前のみの日もあれば午後のみの日もある。今日は午後からで明日は午前のみのため、明日授業が終わった後に会おうと話していた。


「今から図書室に行こうと思って……」
「着いたところだったのよ。そしたら葉山さんが駆け降りてきたの」

私の言葉を補足するかのように梨乃が続ける。


「……そっか。なあ、雪華、この際だからナナちゃんに話をしたら? 元々この確認を急いだのは葉山にしっかり事実を伝えて諦めさせるためだろ。それでお前らがギクシャクしてしまったら元も子もなくなるんだしさ」

楠本くんがいつもとは違う真剣な声で言う。