すると、「はい、俺らセンスねぇので撤収〜」と、奴らは帰って行った。半笑いだったのが許せなかったが、言う事言って反論して来なかったので良しとしよう。私の言論の勝ち、所謂白井君の勝ちだ。やってしまったが後悔はない。あのまま引き下がる訳にはいかなかったのだから、後悔はない!
その場に残った白井君はポカンとした表情の後、ハッと我に帰ったような素振りで、「なんか…本当に、ごめん」と、珍しくオロオロしていて。そこでようやく私は、白井君の勝ち!とかではないと気がついた。
まさか、白井君は嫌だった…?そりゃあそうだ。よくよく考えたら奴らは白井君の友達な訳だし、あんなに失礼な事も白井君からしたら大した事ではない感じかもしれないし、それをこんな大事にされたらすごく困ってる可能性も「ダメだ」ある訳で、そう、そんなのダメな訳で、
「え?」
ぐるぐるぐるぐる回っていた思考回路が一時停止し、音声記憶を巻き戻す。
「…ダメ?」
思考の海の中に突然現れた言葉だった。何がだろう、意味が理解出来ずに白井君を見つめる。すると白井君は視線をさっと斜め下へと動かし、
「すごいな、相原さんは」
とだけ告げて、自分のクラスへと戻っていった。
戻っていってしまったのだ。
私はというと、ポツンとその場に取り残されたように立ちすくみ、黙って白井君の背中を見送る事しか出来なかった。言葉を返せなかった。どういった意図を持って発した言葉なのか、さっぱり分からなかったからだ。
白井君は苦い顔をしていた。褒めてくれる顔でも、嫌がっている顔でも、落ち込んだ顔でも無くて、こう、複雑な心境が混ざり合ったような表情をしていて、それとすごいな、の言葉をどう組み合わせていいのか分からないというか、皮肉を言う人でも無いし、でもそんな表情で言うならやっぱり、とも思うし、一体全体どうしたらいいのか…私には、分からなかった。



