「……先輩…」






「…ぎ先輩」






「つむぎ先輩?」

「…へ。あ、ごめん。何?」

「さっきからぼんやりして、大丈夫ですか?」



隣で書類に目を通していた
早川(はやかわ)君の声にも気付かないくらい
考え事に集中していた。



「大丈夫だよ」

「ならいいんですけど…」



気を取り直して、私も書類に目を通して
本棚を整理する。


放課後。


寄贈された本の整理を先生に頼まれて
ひとつ下の後輩の早川君と一緒に作業していた。


早川君は同じ図書委員。

図書委員は人数が少ないから
必然的に、こういう急な雑用は
下っ端の私と早川君にまわってくる。



「……そういえば、つむぎ先輩」

「ん?」

「つむぎ先輩って
矢橋先輩と付き合ってるんですか?」

「…」



ぴたっと手が止まる。


こーくんの名前を出されただけで
心臓がどきどきうるさい。



「…付き合ってないよ」

「なら、つむぎ先輩は好きな人いないんですか」

「…内緒」



……そんな風にはぐらかしてしまったけど
頭の中には、いつも傍にいる男の子の姿が浮かぶ。



「…」



曖昧に答えた私に早川君はどこか不服そうな顔。


不思議に思って問いかける。