「……どうして?」
「どうしてって、なんで募兵したかっすか?」
私は答える代わりに頷く。
翼さんは途端に真剣な顔になった。
「それは、本人に訊いたらダメっすよ。殺されたくなければ」
「……え?」
クロちゃんが私を殺す?
「冗談っすよ~! でも、好奇心や同情は抑えてくださいっすね」
おどけて言って、人差し指を唇の前に持ってきた。さっきの真剣な表情はどこかに消えてしまったみたい。
「なんだ冗談ですか。びっくりしたじゃないですか」
「すいません。でも、隊長がいかにすごいかはお教えしましょう!」
おどけて言って、翼さんは大げさに万歳する。
「俺が、初めて隊長に会ったのは五年前! 隊長は当時歩兵で、あれが初陣だったんすよ。戦況は悪く、このままじゃ負けるかなってんで作戦会議をしてたんっすわ。そこに僅か十歳のガキが、指揮官が鎮座してる自軍のテントに乗り込んできて〝お前ら使えないから俺に指揮させろ〟って言い放ったんす!」
「えっ本当ですか?」
「当然ガキがなに言ってんだ出てけー!って、なるでしょ。そしたら反発したやつ全員のして〝俺に従え〟って、つめた~い目して言うもんで、結局従っちゃったんすよね~。何を隠そう、俺もその場にいたんすけどね」
私は目をぱちくりとさせる。
「……のされたんですか?」
「のされましたよ」
当然、とばかりに翼さんは頷いた。
「いやしかし、それで勝っちゃうんだから、さすがは天才。知将だ英雄だって言われるだけのことはあるってもんですよ」
「勝ったんだ。黒田くんってすごいですね!」
十歳の少年が指揮をとり、敵軍を相手取って戦う。そんなことが出来たら、本当の天才だ。クロちゃんって頭が良いんだなぁ。
「すごいなんてもんじゃないっすよ!」
翼さんは声を上げた。
でも、さっきと声音が違う。称賛だけじゃなく、どことなく怖がってる風でもある。
「あれは、えげつないっすよ。敵が嫌がることはすべてやる。敵が戦意喪失するまで徹底的にやる」
見る見る翼さんの顔が歪んでいく。
一見、恐怖を装ってるけど完全に面白がってる。上司をディスって楽しんでるのが見え見えで、私は苦笑を漏らした。
「敵の意表をつくのがだ~いすきっていう、一種の変態っていうか――」
「おい、翼!」
背後から、冷たい声が呼びかけた。
振り返った先にいたのは、柱に肩を預けて立っているクロちゃんだ。にこりと笑みながら、腕を組んでいた。
「どうしてって、なんで募兵したかっすか?」
私は答える代わりに頷く。
翼さんは途端に真剣な顔になった。
「それは、本人に訊いたらダメっすよ。殺されたくなければ」
「……え?」
クロちゃんが私を殺す?
「冗談っすよ~! でも、好奇心や同情は抑えてくださいっすね」
おどけて言って、人差し指を唇の前に持ってきた。さっきの真剣な表情はどこかに消えてしまったみたい。
「なんだ冗談ですか。びっくりしたじゃないですか」
「すいません。でも、隊長がいかにすごいかはお教えしましょう!」
おどけて言って、翼さんは大げさに万歳する。
「俺が、初めて隊長に会ったのは五年前! 隊長は当時歩兵で、あれが初陣だったんすよ。戦況は悪く、このままじゃ負けるかなってんで作戦会議をしてたんっすわ。そこに僅か十歳のガキが、指揮官が鎮座してる自軍のテントに乗り込んできて〝お前ら使えないから俺に指揮させろ〟って言い放ったんす!」
「えっ本当ですか?」
「当然ガキがなに言ってんだ出てけー!って、なるでしょ。そしたら反発したやつ全員のして〝俺に従え〟って、つめた~い目して言うもんで、結局従っちゃったんすよね~。何を隠そう、俺もその場にいたんすけどね」
私は目をぱちくりとさせる。
「……のされたんですか?」
「のされましたよ」
当然、とばかりに翼さんは頷いた。
「いやしかし、それで勝っちゃうんだから、さすがは天才。知将だ英雄だって言われるだけのことはあるってもんですよ」
「勝ったんだ。黒田くんってすごいですね!」
十歳の少年が指揮をとり、敵軍を相手取って戦う。そんなことが出来たら、本当の天才だ。クロちゃんって頭が良いんだなぁ。
「すごいなんてもんじゃないっすよ!」
翼さんは声を上げた。
でも、さっきと声音が違う。称賛だけじゃなく、どことなく怖がってる風でもある。
「あれは、えげつないっすよ。敵が嫌がることはすべてやる。敵が戦意喪失するまで徹底的にやる」
見る見る翼さんの顔が歪んでいく。
一見、恐怖を装ってるけど完全に面白がってる。上司をディスって楽しんでるのが見え見えで、私は苦笑を漏らした。
「敵の意表をつくのがだ~いすきっていう、一種の変態っていうか――」
「おい、翼!」
背後から、冷たい声が呼びかけた。
振り返った先にいたのは、柱に肩を預けて立っているクロちゃんだ。にこりと笑みながら、腕を組んでいた。



