「功歩がなめ切ってた瞑が永と手を組んで、軍が手薄になった功歩を攻めたんすよ。大打撃を受けまして、兵を撤退させたんす。それが三年前っすね」

 それが報い? でも、なんとなく違う気もする。翼さんが言った報いは、気のせいかも知れないけれど、もっと陰惨な気配がした。

「同時期に怠輪が、千葉、爛、倭和を攻め込み、倭和に返り討ちにされ、倭和以外のどの国も疲弊しきって戦争は休戦になったんすよ」
「大変だったんですね」
「まあ、悪いことばっかじゃないっすよ。おかげで隊長と会えたんすから」

 翼さんはやわらかい表情で遠くを見た。きっと、その隊長さんって大事な人なんだ。

「その隊長さんってどんな人なんですか?」

 訊くと、翼さんはきょとんとした顔をした。

「ああ! そっか。ゆりちゃんはまだ知らないんすね」

 ゆりちゃん? 男性にそんな風に呼ばれたことないからちょっと戸惑ってしまう。

「知らないってなにがですか?」
「隊長にはもう会ってますよ。黒田隊長がそうっす」
「――えっ!?」

 私は目を見開いた。
 クロちゃんが翼さんの上司なのは知ってたけど、隊長って……クロちゃんって軍人だったの?

「隊長はうちの国の英雄っす!」

 翼さんが誇らしげに胸を張った。
 しかも、英雄って……! クロちゃんって何者? 
もしかして、見た目が若いだけで私より年上なのかも知れない。

「隊長が指揮をとった戦場で負けたことは一度もなかったすね~! 功歩のクソヤローどもを策ひとつで破るんすからね。知将と名を馳せるだけのことはありますよ。うちの黒田三関は!」

 しみじみと言って、翼さんは顎を触る。話の腰を折るようで申し訳ないけど、私は質問した。

「あの、黒田くんって何歳なんですか?」
「十五歳っすね」
「十五……」

 私よりひとつ下だ。
 そんな少年が、戦争に赴いて戦っていたなんて……。私には到底想像できない。
 なんだかすごくショックだ。

「いつから戦ってるんですか?」
「そっすねぇ。たしか、十歳でした。年を偽って入隊したんすよ。うちの国ではわりと早い年から募兵を募るんすけど、それでも十三からなんすよ」

 私は半分頭が真っ白になっていて、後半の翼さんセリフは頭に入って来なかった。
 十歳? 十歳の子が、人を殺したり、殺されたりする悲惨なところに行ってたの?