「美章って、大国に挟まれた半島だったっけ?」
「そう。爛も戦争で甚大な被害があったけど、美章が一番悲惨だったって聞いたな」

 雪村くんはどこか悲しそうな顔で遠くを見る目をした。

「戦争……」

 そういえば、月鵬さんが世界大戦があったって言ってたっけ。

「ねえ、世界大戦ってどんな風だったの?」
「え~っと……」

 雪村くんは考えるようにしてから、困ったように笑った。

「ごめん。考えたら俺よく知らないかも」
「え? そうなの?」

 当事者なんじゃないの?
 雪村くんは頬を掻く。

「う~ん……。俺、戦争には反対だったから」
「そっか」

 そういう人もやっぱりいるよね。戦争なんてない方が良いに決まってるもん。

「興味あるなら、誰か他の人に聞いたら良いよ。風間は何でも知ってるし、花野井さんは将軍だし、多分俺以外の人ならみんな詳しいんじゃないかなぁ?」

 雪村くんは、すっと眺めの瞬きをした。その瞬間、視界がぐらっと回った気がしたけど、次の瞬間には何事もなかった。軽いめまい? 首を傾げたとき、

「――あっ! あれが風呂だよ」

 雪村くんが指を指す。
 私はその先を見た。そこには、はなれがあった。六角形の変わった建物で、それほど大きくはない。小屋という感じだ。

 縁側に下駄があったので、それを履いて、そのままお風呂小屋へ直行できるみたい。お風呂への道には立派な石が敷かれていた。

「雪村くん案内してくれてありがとう」

 見上げると雪村くんは頬を赤くして、びくっと肩を震わせた。

「あっ、うん。じゃあ、俺はこれで! ――わっ!」

 手を振って踵を返すと同時に、柱にぶつかりそうになった。雪村くんは恥ずかしそうに振り返って苦笑しながら去って行った。

 度が過ぎるくらいの人見知りなんだなぁ……雪村くんって。しみじみと思いながら、私は庭石を渡り、お風呂の木戸を開けた。
 檜に似た良い匂いが漂ってくる。
 小さなたたきがあって、すぐに脱衣所が広がっている。