「一時解除許可(イリョカ)」
(――え?)
雪村くんが言葉を発した瞬間、私の耳におかしなことが起こった。
『一時解除許可(いちじかいじょきょか)』と『イリョカ』という、二つの言葉が同時に聞こえた。
『イリョカ』は雪村くんの声で『一時解除許可』は、誰か、別人の声で……。
その声は、低く、渋い声だった。
(気のせいだよね)
胸騒ぎがしたけど、私は首を振ってそれを払った。そのとき、何故か門がぼやけだした。その〝ぼやけ〟が門と塀と空の一部を覆う。
まるで、巨大なシャボン玉にでも包まれていたみたい。
門を覆っていたぼやけはものの数秒で晴れた。その途端、門の色が鮮やかに見え出した。
さっきまでくすんでた門の赤色が、鮮明になる。
(なんで? 結界がなくなったから?)
呆然としている私に、毛利さんが門を潜りながら声をかけた。
「早く入れ」
「あ、はい」
私は気のない返事を返して門を潜った。
潜り終えると同時に、シュン! と微かに音がして、門はまたくすんだ色へと変わった。
* * *
中に入ると、すぐに屋敷があるというわけではなかった。一面に広い芝生が広がっている。でも、少し様子がおかしい。
庭木が風にあおられて折れたようになってたり、芝生が毟り取られたような状態だったり、芝の上に土や砂が被さったりしている。
まるで、竜巻の被害にでも遭ったみたいだった。



