やっぱ、恥ずかしいから下ろして欲しいっ! こんなにきれいな顔をこんな間近で見たらヤバイよ! 申し訳ないよっ!

「ちょっと待て、風間。俺が彼女を連れて行こう!」

 雪村くんがびしっと挙手しながら、スタスタと近づいてきた。

「しかし、雪村様――」
「良いから良いから!」
「きゃ!」

 どこか心配そうな風間さんを遮り、雪村くんは私を強引に下ろした。お姫様抱っこをする前に、雪村くんに腰をつかまれて宙に足が浮く。
 胸が彼の胸板にくっついた。

「ブフォ――!」
「えっ!」

 突然、雪村くんが鼻血を吹きだして倒れこんだ。私もそのまま雪村くんに引っ張られて、一緒に倒れこむ。

「きゃあ! ――痛ぁ!」

 雪村くんの上で起き上がると、彼は両鼻から鼻血をたらして白目をむいてた。

「大丈夫!?」
「だから言ったんですよ。雪村様」

 心配する私をよそに、風間さんは呆れたように言って、雪村くんを背負った。

「大丈夫ですよ。気絶しただけですから」

 風間さんはやんわりと笑った。

「あ~あ……めんどう増やしちゃって、これだから坊ちゃんはさ!」

 思い切り嫌味を言ったクロちゃんは、呆れ果てたように雪村くんを見ていた。

(気絶って、もしかして私、そんなに臭ったのかな?)

 汚物がついた袖口をくんっとかぐと、

「うえっ。すっぱい!」

(ごめんね、雪村くん)

 私は風間さんの背中で項垂れる雪村くんに手をあわせた。でも、なんか幸せそうな顔に見えるのはなんでだろう?