涙を見せないように俯いてると、ふと、ひんやりとした何かが頬を包んだ。思わず顔を上げると、目の前にフードに隠れたクロちゃんの顔がある。

 間近で見た彼の頬も、私の顔を包む手のひらも、透き通るように白く、薄っすらとそばかすが見える。フードの奥に隠れた瞳は、深い緑だった。きっと、明るいところで見たら、草原のように美しい。そんな風にぼんやりと思ったとき、クロちゃんの顔が近づいた。
 冷えた頬に、暖かくて、やわらかいものが微かな衝撃をあたえた。
 私は驚いて身を引いた。目を見開いて、頬に手を当てる。冷えていた体が瞬間的に熱くなった。

「い、今、ほっぺたに、キ、キス!」
「涙、ひっこんだでしょ?」

 クロちゃんは軽くウィンクした。

「へ?」

 たしかに、涙は止ってた。
 だからって、キスするなんて……! でも、クロちゃんってもしかして外国人? 肌が日本人とは違う感じだし。だったら、挨拶みたいなもんなのか。

「早速抜け駆けか」
「早いもん勝ちでしょ」

 毛利さんが淡々と言って、クロちゃんは得意げに笑みを返した。
 私は小首を傾げる。何の話?
 そこに声が飛んできた。

「お~い、無事か?」

 数メートル離れた木の陰から、花野井さんが手を振って走ってきた。

「おっ、無事か、良かったな!」

 花野井さんは私の前まで駆けてくると、頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「きゃっ!」
(か、髪が乱れる)