「起きたんですね」

 柔和な声が聞こえて、私は身を乗り出して振り返る。右側から、男性が歩いてきていた。私は、一瞬にして体温が上昇した気がした。
 彼は灰色の髪に、澄み渡る空のような水色の瞳で微笑んだ。

(うっわぁ! こんな美形、見たことない!)

 え? 男の人だよね? 女の人じゃないよね? 思わずじろじろと見てしまう。
 多分、おそらく、男の人だと思われる彼は、二十代中頃で、執事が着るようなジャケットをはおり、白い手袋をはめている。声と、かっこうがそうだから、男の人だと思うけど、中性的な顔立ちをしていて、黙っていれば女の人みたいだ。

(女の人だったら、大人になった沢辺さんがこんな風にキレイになるんだろうな)

 ほえ~と、見惚れていたら、苦笑されてしまった。
 やっべ。

「皆様がお待ちです。こちらへ来ていただけますか?」
「皆様?」

 訊き返したけど、彼がすっと手のひらを返して縁側の先へ促すので、私はついつい足を踏み出してしまった。


 * * *


 縁側を歩いていると、この家はすごく広い建物なんだとわかった。だって、縁側を五十メートルは歩かされたんだもん。
 空の上で見た大きな屋敷が頭に浮かぶ。いやいや、あれは夢だって。じゃなかったら、空から落ちて生きてるはずないんだから。

 私が頭を振ったとき、彼が足を止めた。縁側の折り返し地点から、三つ目の部屋の障子を開ける。

「失礼します」

 ぺこりと頭を下げると、振り返って私に笑みかける。

(笑顔フェチには殺人級だよっ!)

 心臓がバクバクする。
 入室を促すしぐさをした彼は、少しかがんだ。

(あれ? この人、頬に薄っすら傷跡がある)

 せっかくの美形なのに、もったいない。紙か何かで切ったのかな?
 私はちょっと残念に思いながら部屋へ入った。