「風間さんに最初に話を聞いた時も言ったけどさ、本当に魔王は宿るの? あの時の答えじゃ、十中八九ってなことだったから、密書でもなにも言わなかったけどさぁ。……でも、例の昔話じゃ、魔王の器となるものを見つけるために多大な犠牲を払ったわけだろ?」

 風間は相変わらず柔和な表情で黒田を見ていた。黒田は若干の不愉快さを現しながら、言わずに留めた言葉を放つ。

「それを、たったの二年半で見つけたわけ?」
「あるいはもっと早くの段階から探していたのかも知れぬな。数ヶ月前、我々に連絡をするよりも遥か以前に見つけていたという可能性もある」

 外面的には能面のような表情で嘲笑した毛利は、切れ長の瞳をさらに鋭くし、風間を見やった。

「何せ、三年前まで世界大戦中だ。混乱に乗じてどこの国にでも何にでも忍び込めるであろう」
「お前が言うかね」

 ぼそっと呟いた花野井の声を、毛利は無視する。

「きな臭い噂もあったと聞くぞ。何せ鎖国していた大国まで出張ってくる有様だったからな」
「それはそうですが……。それと、これと、なんの関係が?」

 にっこりと笑みを作りながら、風間は向けられた疑惑を一蹴した。

「話を戻しても?」

 ふんわりと微笑んだ風間に、毛利は小さく顎を引いて答えた。

「二年半かけて、数ヶ月前、魔王の器候補を見つけました。それは信じていただくより他ありません。黒田様よろしいですか?」
「まあ、良いけど。でもさぁ、もうひとつ良い? その器ってやつの中に魔王が定着する可能性って確率的にみたら低いわけだろ? なのに、〝死体〟なんて使って大丈夫なわけ? もっと確率の高い方法だってあるでしょ」
「生きた人間でためせってことか? 黒田」

 花野井は黒田を軽く睨み付けた。

「ま、そういうことだね。散々密書で議論してきたことだけど、ぼくはやっぱ、効率が良いほうが良いんだよ。どうせやるならさ。昔話だって、死んだ人間を使ったなんて出てこないでしょ。生きた人間を使ったから、生贄っていうんだからさ」
「……反対だな」
「俺も反対!」

 冷静に否定した花野井に便乗し、仲間発見! とでも言うように嬉々として雪村が手を上げる。