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 案内された十畳ほどの和室の中で、彼らは座ろうとはせず、自然と互いに向かい合って歪な円のような形になっていた。

「まずは、自己紹介でもしておきましょうか? 皆様、私以外とは初お目見えですよね」

 風間にそう促されて、いの一番に名乗ったのは花野井だった。

「花野井剣之助だ」

 それ以上の情報は与えず、白銀の猫っ毛を揺らし、にかっと笑う。
 続いた黒田も毛利も名しか名乗らなかったが、互いに有名人であったため誰がどこの国の何であるのかはそれだけで把握出来た。

 しかし、三条雪村だけは名乗られただけでは個人の特定には至らなかった。三条という苗字で一族の把握は出来ても、当主と風間につき足されなければ一族の中の一人という位置づけだっただろう。それでも、この世界では十分に有名であったが。
 花野井は、どことなくぼうっとした様子の雪村をまじまじと見やった。

(こいつが、さっきの奇特なやつねぇ……)

 素直だが、愚鈍で、危ういやつという印象を、花野井は彼に持った。それは、雪村に似た人物を彼が知っていたからなのだが、それゆえに残念に思う。
 花野井は雪村のようなタイプが嫌いではなかったからだ。むしろ、好きな部類だった。

 こんな場で、このような目的で会ったのでなければ、雪村が三条一族でなければ、そして彼にとっての仇敵国の者でなければ、弟のように可愛がったに違いないであろうと。

「では、さっそく議題に入りましょう」

 風間の声を機に、花野井は雪村から目線を外した。風間の手の動きに促され、それぞれがそのままの位置で腰を下ろす。

「まずは、今夜決行ということでよろしいですね?」
「ああ」

 風間の確認に花野井は短く答え、雪村は渋々といった感じで頷いた。毛利は腕を組み静かに瞳を閉じる。

「ちょっといいかな」

 声を上げたのは黒田だった。