ドラゴンは、馬と同じ大きさの胴体に細くうねった爬虫類の首がついている。前足は短く、後ろ足は太い。先ほどのティラノサウルスのようなドラゴンと比べると、羽を入れても二回りほど小さい。赤いドラゴンの真上には、同じような翼竜が十数匹旋回している。いずれも人を乗せていたが、赤い色は一匹もいなかった。

「ごめん、ごめ~ん。ぼくのシンディって繊細だからさぁ。ちょ~と、扱いづらいんだよねぇ」

 悪びれない語調で、赤いドラゴン――シンディの上から黒髪の青年に向って話しかけたのは、フードつきの黒い服を纏い、透き通るような白い肌が印象的な少年だった。
 全身黒のわりには服の装飾品が派手で、スライダーやチェーンがピンクや金色だ。フードについている小さな角のかざりも赤と黒のボーダーだった。

「キミ、三条(みじょう)の人間?」

――だろ? と続く言葉を少年は呑み込んだ。当たりをつけている事を悟られないためだった。するとシンディに銜えられている青年はこくんと頷いた。

「三条雪村(みじょうゆきむら)だ」
「ふ~ん。そっかぁ」
(こいつが、あの三条家当主ね……)

 少年は薄っすらと笑って、心の中で憎々しげに呟いた。
 
「ほら、シンディ放しな」

 心とは裏腹に、明るくシンディの背をポンポンと叩くと、シンディは、パッと三条雪村を放した。

「うわ! ――痛てぇ!」

 雪村は打ちつけた尻を擦りながら、シンディを軽く睨みつけた。
 シンディの轡(くつわ)の縄紐を掴みながら、少年は地面に降りた。

「お待ちしておりました、黒田様」

 風間から発せられた少年の名に、花野井と雪村は目を見開いて驚いた。しかし毛利は若干眉を動かすに留める。

「黒田、お前みてえなガキが……」

 呆然とした呟きのあと、花野井は愉快そうに口の端を歪めた。それとは対照的に、複雑な表情で黒田を見たのは雪村であった。

「ぼくが一番最後なの?」
「ええ、まあ、そうですね」
「ごめんねぇ。ぼくが一番近いのにさぁ。復興が全然追いついてなくって、大変でね~。どっかの誰かのせいで」

 言い方は軽かったが、それぞれ言葉に引っかかりを覚えたのか、さまざまな表情で黒田を見た。
 花野井は苦笑し、雪村は眉根を寄せ、毛利は誰にも分からないように片眉を釣り上げた。そして風間は微笑みながらも、内心では不快感をあらわにする。

「それで、密書の続きの話し合いはどこでするのかな?」
「では、行きましょうか。黒田様ご一行と騎乗翼竜は、私の部下に案内させますのでご心配なく。皆様、私について来て下さい」