「よからぬ事ですか……ここに集まる者は皆、よからぬ事を企んでいるのではございませんか?」
(確かにな……)

 僅かに毛利の口元が緩んだ。
 それを見破るのは至難の業であっただろう。
 実際、風間はそれには気づかなかった。

 場に僅かな沈黙が訪れたとき、大きな羽音が辺りに響いた。縁側の障子がカタカタと風に揺れ、翼の影が降り立つ。
 毛利は僅かに片方の眉を吊り上げ、風間はにこやかに笑むと立ち上がった。


 * * *


 庭に降り立った生物は、短い首に大きく裂けた口。凶暴そうな牙と無骨な体に大きな羽を持った姿をしていた。ティラノサウルスの皮膚を白くコーティングし、真綿のようにふわふわとした巨大な羽毛を生やしたそれは、まさしくドラゴンと呼べる生物だった。
 首周りにある綿毛のようなたてがみから、人影が覗いた。

 派手で艶美な着物を纏った彼は、豪快な笑みを浮かべながら、三メートルはあるドラゴンの背から大胆にも降り立った。
 鈍く、重い音を周囲に響かせたが、彼は意にかえさず豪快に歩き出し、そのまま下駄を撒き散らし、ドカドカと縁側を踏んで、勢いよく障子を開いた。

「よお、待たせたなぁ!」
「待ってはおらぬわ」

 騒々しく部屋へと入ってきたのは、白髪に燃えるような赤い瞳の、女物のような派手な着物を纏った屈強な男だった。
 そんな男を毛利は、抑揚のない声で一蹴した。
 ぴしゃりと言われ、なんだこいつ!? というように目を見開く男を、風間はにこやかに受け入れた。