呪から解放され、身体の傷も随分回復した。
龍王のおかげで、長い暗闇からやっと抜け出す事が出来た。
私を抱き枕のようにして眠る龍王。
ゆっくりとした寝息と鼓動。
龍王のおかげで私はここに生きている。
親からも周りの人からも受け入れられずにいた私を、救い上げてくれた。
安らぎをくれた。
居場所をくれた。
この心地よい感覚。
いつまでも、この幸せの中にいたい。

あい?
愛するという事。
愛おしいという感情。
龍王が初めて教えてくれた。
この切なくて胸がきゅうっとなる気持ち。
激しくなる鼓動。
泣きたくなるほどの幸せ。
全部龍王が教えてくれたこと。
暖かな腕の中、綺麗な顔。
私はそっと頬に触れる。
いつも怒った様な表情だけど、私を見つめる時には瞳の奥は優しくなる。
不器用な笑顔になる。
そんな不器用な笑顔がたまらなく好き。
すき。
好き。
愛おしい。
大好き。
止まらない想い。
いつしかまた幸せに包まれながら、夢の中に落ちていく。

数日後。
宮殿の中が慌ただしさを感じた。
いつもとどこかが違う。
宮殿で働く人たちがいつもより、早く動いている様に感じられた。
何かが今までとは違う予感。
優しくてどこまでの甘い時間は夢となって色褪せる。

夕食時、いつものように食卓には翡翠の他に蒼龍と紅龍の姿があった。
そこで龍王が、明日来客がくる事を告げた。
空気が怒りを含んでピリピリと痛い。
いつもより機嫌が悪いような気がする。
ここまで龍王を苛立たせる客とは誰だ?
「誰が来るんだ?」
紅龍はすぐに聞いた。
「白龍だ。」
「白龍ってたしか龍王の随分前の婚約者だろ?
同族で唯一の女。
病気でずっと寝たきりだと聞いたが。」
婚約者?
龍族の中で唯一の女性?。
「龍族にはなかなか女性が産まれないんだ。
今龍族の中で女性は白龍だけなんだ。
だから白龍は龍族にとっては貴重な存在なんだよ。
スーと会う前。
龍王との結婚話があったんだけど、かなり重い病気にかかったらしくてね。
その話も無くなったんだ。」
蒼龍が説明してくれた。
始めて聞く話し。
大きな不安が押し寄せる。
でも今さらなぜ?
今になって何故ここへ?
その不安は次の日に現実のものとなる。

次の日。
白龍はたくさんのお付きの者を連れて宮殿に現れた。
圧倒的な生まれ持つ威圧感。
その気品に満ちた表情。
余裕の表情で笑う笑顔は、大人の魅力を感じさせた。
色白で人形のように整った顔。
それはそれは、とても綺麗な女性だった。
美貌、容姿、上品な雰囲気。
どれもかなう所が見つからない。
自信に満ちたオーラが、一瞬でその場を占領する。
出迎えた龍王。
並んだ姿は本当にお似合いの二人だった。
「白龍さまこそ、龍王さまに相応しい。」
取り巻きの貴族たちはこぞって噂する。
龍王の隣を歩く白龍。
まさに絵になるニ人だった。

私はというと出迎えの人たちの一番後ろ。
人の波に押され、いつしかその場所に追いやられていた。
ここからはかなり離れた場所。
そこからニ人の様子をじっと見ていた。
歓迎ムード一式に包まれる場所。
誰からも祝福されたニ人。
自分だけが、違う世界にいるようだった。
周りは龍たちばかり、人間は自分だけという現実。
それを嫌でも突きつけられた。
いつもは龍王が側にいる事で感じる事はなかった事。
改めて守られていた事を実感する。
強い疎外感。
孤独という闇が、私の心を蝕んでいく。
もう私は必要ない?
白龍の存在が自分の存在を消し去っていく。
私の居場所が無くなっていく。
自分自身が消えて失くなる感覚。

周りの龍たちから興奮した話し声が聞こえる。
それは誰もが嬉しそう。
そして口々に。
「2人が結ばれることこそ、龍族の繁栄の象徴。」
あ!
そうか。
そうなんだ。
反する言葉が見当たらない。
龍王の相手は私なんかよりも、同じ龍族の女性の方が正しいんだ。
その人々の言葉はまるで麻薬のよう。
身体に心に静かに、そして深く沈み込んでいく。
人間の私よりも・・・。
弱く短命な私よりも。
ずっとずっとお似合いなんだ。
傷付いて心の痛みは時間を追う毎に強く激しくなっていく。
そして深い闇へと落ちていく。
龍王に相応しい相手の存在は白龍。
それほどまでにニ人の並んだ姿は輝いて見えた。

しかしその感情とは反対の気持ちを抱いていた。
安心する気持ちも同時に大きくしていた。

・・・私はもうすぐこの世界から消える!!!・・・

私はもうすぐこの世からいなくなるのだから。
消えてしまうのだから。
跡形もなく消滅してしまうのだから。
これは誰にも言えない事実。
そして哀しい現実。

連れ去れた時、父は私にもう一つの術をかけた。
呪が解かれたと同時に発動する術。
命の消滅。
魂の消失。
そこまで私の存在を疎ましく感じていた父。
最後まで父から否定されてしまった。
子どもとして見てはくれなかった。
欲しかった親としての愛と温もりはくれなかった。
諦めきった心。
それでもなぜだか涙は流れ落ちた。
諦めた筈のなのに何故?
溢れ出る涙は止めるすべを知らなかった。

親さえ見捨てたこんな私を、受け入れてくれた龍王。
今まで、本当にありがとう。
感謝してもしきれないものを沢山くれた。
幸せという感覚を感じさせてくれた。
龍王には幸せになってほしいから。
龍王はこれで大丈夫。
私がいなくなっても。
龍王の側には白龍がいる。
みんなが認める存在。
一人ではない。
もう孤独になる事はない。
もう孤独を感じる事はない。
孤独を感じる中、孤独から抜け出した龍王を見つめた。
そこに歩み続ける二人の明るい未来を見た気がした。
それは眩しすぎる光。
私には望めない光。

龍王は辺りを見回す仕草を見せた。
もしかして私を捜してくれているの?
急にいなくなったから心配してくれているの?
でも・・・。
この状況で私が出て行く勇気はない。
どう考えても私の場所はここにはない。
今すぐ消えて無くなりたい気持ちになった。
私はなぜか、とっさに建物の影に隠れた。
その場の人々に押されるようにして移動し始める。
遠ざかっていくニ人。
そして大勢の人たちと、共に大広間に入って行った。

白龍は龍王の住まう本殿のすぐ隣。
いつもは来賓用に使う、その建物に住むようになった。
龍王が公務から終わる頃に現れ、何かと世話を焼く白龍。
何か理由をつけては、龍王の部屋に入り込み時間を過ごす。
そんな日々がしばらく続いた。
そして囁き始める言葉。
周りの貴族たちは白龍との結婚を進めてくるようになっていった。
龍族にとってはこの上ない、申し分のない結びつき。
誰も反対する者などいる筈はなかった。

龍王は白龍の性格を良く知っていた。
自分が無視すれば、矛先は翡翠に向けられるだろう。
どんな手段で翡翠の身が危険にさらされるか分からない。
蒼龍と紅龍が側についてはいるが、それも安心できない。
それほど白龍の性格は危険な龍だった。
白龍が来て以来、翡翠に会えない日々が続く日々。
苛立ちは積もるばかりだ。
もう少し白龍の方が落ち着くまで待つしかない。
普段は何も無関心な龍族。
だが、一旦気に入り執着するとそれを覆す事は難しい。
白龍の私に対する私への執着は激しいものだった。
今はその攻撃が翡翠に向かない為に、それなりの態度を取り続けるしかない。
いつも不器用で、言葉の少ない龍王のこの行動。
それがこの後、深刻な誤解を招くとは知らずに。

宮殿の大広間から明るい音楽が流れてきた。
あれから白龍を迎えての歓迎パーティーが毎日のように行われた。
翡翠は部屋のバルコニーからそれを見つめていた。
白龍が来てからパタリと姿を見せなくなった龍王。
翡翠は少し遠い場所、高い場所から見下ろす。
そこは、気付かれる事なく大広間が見渡せる場所。
ここから龍王の姿を捜す。
たくさんの貴族たちが音楽に合わせてダンスをしていた。
大広間の中央、2人が踊る姿が見えた。
龍王・・・。
白龍の腰を抱き踊る龍王は、まるで別人に思えた。
龍王は龍族を統べる存在。
私は・・・・。
私はただの人間。
私はか弱き人間の巫女でしかない。

龍王との遠い距離。
この数日でこんなにも遠くなってしまった。
今まで感じていた、近くでずっと側にいて感じていた温もり。
今は寒く、凍える心は、身体は震えていた。
暖かさを知ってしまった私の身体は龍王を恋しがった。
抱きしめてほしいと震えていた。
しかし今はその温もりはない。
ただ自分の身体を小さく丸める事しかできなかった。

「こんな所で何をしている?
人使いの荒い龍王が様子を見てこいと・・ん?」
様子がおかしい事に気付いた紅龍。
ぐいっと肩を両手で掴み、自分の方に身体を向かせる。
しばらく私を見ていた紅龍が眉をしかめて言った。
「お前から死の匂いがする。」
驚いた表情のスー。
なぜ、分かったの?
私は誰にも言ってないのに。

「何かを隠しているだろう?」
「何もありません。」
明らかに動揺した様子。
「俺の国の龍たちは好戦的な種族だ。
いつも死と隣合わせに生きてきた。
死の匂いを嗅ぎ分けられる。
だから隠しても分かる。
本能的に身についた俺の感が教えている。
何か隠してる事があるだろう。」
確信に触れられ言葉を失う。
俯く翡翠。

すると優しい声が聞こえてきた。
「これでも俺はお前を気に入っている。
俺はお前の中の強さに憧れている。
好意をもってる。
お前の事が気になって仕方がない。」
告白にも似た言葉。
真剣な声。
今の紅龍には嘘は通用しない。
「お願いだ。
話してくれ。」
柔らかな口調から、翡翠を本当に心配している事が理解できた。
紅龍の真っ直ぐ気持ち。
それが翡翠が隠していた事実を、言葉にする勇気をくれた。
私は観念したように、ぽつりぽつりと話し始めた。

もうすぐ迎える死について。
それに対する経緯。
最後まで子どもとして愛してくれなかった父の事。
そして、龍王と白龍の未来。
龍族にとっての未来。
最後に、龍王に対する溢れんばかりの気持ち。
紅龍は静かに佇み、話しを聞いていた。
「私の願いはただ一つ。
龍王の幸せ。
それだけです。
それだけなんです。」
不意に包まれる温もり。
これは紅龍の温かい体温。
翡翠は紅龍に抱きしめられていた。
龍王ではない匂い、温もり。
温もりを欲する身体と心。
紅龍の腕の中で戸惑う翡翠。

「俺と来るか?」
頭の上から先程よりも、もっと優しい声。
真剣な目が私を捕らえる。
「ここにいたら辛いんだろう?
俺が連れ出してやろうか?」
ここから離れる?
龍王から離れる?
その方がいいの?
揺れ動く気持ち。
さっきまではニ人が幸せになってほしいと思ってた。
でも本当に龍王から離れる事になったら・・・?
紅龍なら私をここから連れ出す事が出来るかもしれない。
紅龍に付いていけば龍王は幸せになる?
色々な想いが交ざり合い混乱する心。
何も言えずに立ち尽くす。
涙だけが溢れでる。
別れを決断する事がこんなにも苦しいなんて。
身体が心が全ての感情が、痛いという感覚に集約されていく。

「泣くな。
そんなに泣くくらい辛いなら、なぜ龍王に話さない。」
「白龍がここに来てから、龍王はここに姿を現してくれなくなりました。
私はもう必要ない存在なんだと思います。
あれからニ人の並んだ姿を見てずっと思っていました。
龍王には白龍の方が相応しい相手だと。
ニ人が結ばれる事が龍族にとっては喜ばしい事。」
そして翡翠の思いは悲しいまでに真っ直ぐに。
いつでも龍王だけに向いている。
心変わりとも取れる龍王の態度。
それをそのまま受け入れても、なお。思い続ける。
「私はもうすぐいなくなる。
いらない心配はかけたくないのです。
龍王の幸せが私の幸せなの。」

温かいものが唇に感じた。
紅龍からの口づけ。
翡翠の健気さに思わず理性を失った。
生まれて初めての執着心。
紅龍にとっての初めての感情。
翡翠に会ってからずっと持っていた、名前のない感情。
それは知らぬ間に少しずつ膨らみ続け、そして爆発した。
・・・スーを自分の者にしたい・・・
・・・自分だけの巫女にしたい・・・
翡翠の中にある強さへの憧れ。
それが日増しに大きくなる。
それはやがて翡翠そのものへの好奇心に変わった。

翡翠が自分以外の異性に対して涙する姿。
それを見た時、抑えきれなくなくなった感情。
俺の剥き出し独占欲。
それが身体を無意識に動かした。
気が付いた時には自分の唇を押し当てていた。
俺を見てほしい。
俺だけを見てほしい。
他の男の事でそんな悲しむな。
そんな辛い顔をするな。
俺なら、そんな思いはさせない。
ずっと腕の中に閉じ込めておくのに。
悲しい涙は流させない。
そして誰も触れさせはしない。

少し乱暴な口付け。
だが、その時の翡翠の不安定な心はそれを受け入れていた。
目の前の優しさに甘えたかった。
何かにすがりたかった。
この底知れぬ恐怖を少しでも忘れたかった。
迫りくる死への恐怖。
迫りくる未来のない現実。
その後も流れる涙に何度も口づけをする紅龍。
少しでも不安を取り除く為に。
紅龍の優しさが素直に嬉しかった。

!!!!!
その時木陰から突然現れた龍王。
ニ人の様子を見ていたのか、凄い形相で翡翠に近づく。
「スーは紅龍の方がいいのか!!?」
いつもと違い乱暴に肩を掴む。
「私よりも紅龍を選ぶのか?」
怒りを含んだ態度。
口調。
何もかもが遠い昔に、父親や周りの人たちから受けていた恐怖が蘇る。
怖い。怖い。怖い。
龍王から初めて恐怖を感じた。
怖くて何も言えない私。
身体が固まって動く事も声を発する事も出来ない。
しかしその沈黙が、また龍王の誤解を生む。
しびれを切らした龍王。
「もうわかった!
これからはもう勝手にするがいい。
私はもうお前を解放してやる、どこへでもいくがいい。
もうニ度と私の前に顔を見せるな!!」

少し離れた所に白龍の姿があった。
「白龍いくぞ!!
夜は長い。
たくさん愛してやる。」
朱く染まる顔で俯く白龍。
白龍と共に視界から消える龍王。
もう二度と振り向く事はなかった。
「待て!!」
追いかけようとする紅龍の服を掴み止める翡翠。
涙に潤んだ目。
しかしその目の奥には強い意志があった。
それは紅龍の翡翠が惹かれた心の強さだった。
翡翠は首を横に振る姿。
それは何も言わないでという意味での仕草。
紅龍はそれ以上何も言えなくなってしまった。

・・・これでいいんだ・・・
・・・私よりも同族である白龍と結ばれた方がいい・・・
・・・その方が龍王は幸せになれる・・・
・・・こんなか弱い人間なんかよりも・・・
・・・同じ時間を過ごして行ける白龍・・・
・・・私を暗い闇から救い出してくれた龍王・・・
・・・龍王の幸せが明るい未来が、私の幸せ・・・
・・・たとえ龍王の隣が私でなくても・・・。
・・・これで大丈夫・・・
・・・もう私でなくても大丈夫・・・

完全に二人の姿の見えなくなった。
途端、翡翠の身体は力を失いゆっくりと後ろに倒れていく。
それを支える影。
気を失いそうな翡翠を、後ろから支えてくれる人影が現れた。
「なぜ言わないんだスー。
こんなになるまで我慢して。
ずっと泣いていたんだね。
気が付いてやれなくてごめんね。」
「蒼龍?」
「紅龍のすぐ後から来ていたんだけどね。
なんか出ていくタイミングを逃してね。
話しは後ろの方で全部聞いてた。」
そうか。
蒼龍にも知られてしまったんだね。
「心配ぐらいさせてくれないか。
何も知らない方がもっと辛い。」
「ごめんね。
私ね、もうすぐ消えちゃうの。」
無理して笑う顔が痛々しかった。
今度は蒼龍が抱き寄せた。
翡翠の幸せは透明な涙と共に、こぼれ落ちていくようだった。
いくつもいくつもそれは地面に落ちては吸い込まれては消えた。
まるでこの先の姿を予見するかように。
それは跡形もなく、静かに消えていった。

紅龍の腕で泣いていた翡翠。
泣きながら口づけを受け入れていた姿。
それを見た時の驚き。
狂おしいばかりの嫉妬。
激しい怒りが私の全身を駆け抜けた。
私がこんな愛しているのに。
私がこんなに大事にしているのに。
白龍から危害がないように監視する目的。
その為に私が我慢してまで白龍についていたのに。
これは全部翡翠の為だ。
私が自ら動くのはいつでも翡翠に繋がっている。
なのに、どうして!!
どうしてだ!!!
お前は私よりも他のやつを選ぶのか。
嫉妬。
報われない愛。
もどかしさ。
憎悪。
それが今の龍王の心を激しく占めるもの。

白龍を抱きしめながら、何も言わず立ち尽くしていた翡翠の事を思い出していた。
泣いているでも、笑っているでもない表情。
あれは初めて会った頃、時々見せていた諦めた表情だった。
じっと自分の気持ちを押し殺した無表情な顔。
しかしその時冷静さを失っていた龍王には全く見えていなかった。

ただ翡翠が側いるだけで全てが満たされた。
男の欲望などはどこかに飛んでいた。
触れるだけで、口づけだけで、心から癒された。
やっと手に入れた翡翠。
大事にしたかった。
自分の汚れた欲求だけで、翡翠を抱きたくはなかった。
身体は一度も繋がってはいないが、心は繋がっていると安心していた。
翡翠も自分と同じ思いでいると信じていた。
それなのに!!!!
龍王は嫉妬という熱すぎる感情から冷静さを失わせた。
そしていつもの判断力を完全に失くしていた。


白龍。
白龍は婚約者として、龍王の横に立つべき龍だった。
たった一人の女性の龍。
強い子孫を残す為、強い男に惹かれるのも自然の摂理。
白龍は一目見て、龍王の中に潜在的な強さに気付いた。
それ故に執着し、婚約者と言う立場に固執した。
しかしその後、かなり重い病気になったと聞く。
そして同時に婚約者の話も無くなった。
それは白龍という種族からの一方的な申し入れ。
詳しい事は分からない。
子供の産めなくなった白龍は、永い闘病生活を送る事になる。

白龍は龍王と言う地位と強さに惹かれたのだ。
龍王はすぐに忘れてしまったが、白龍は忘れる事は出来なかった。
もう一度、龍王の横に立ちたい。
身体の全てで龍王を感じたい。
誰にも譲りたくない。
歪んだ愛が時間をかけて加速していった。
そしてやっと、ある事を引き換えにして完治する事となる。

そしてその頃には、人間の巫女の存在がある事を知った。
・・・龍王は私の物よ・・・
・・・人間の分際で横に立とうとは・・・
・・・許さない!!!・・・
そして白龍は龍王の下にやってきた。
自分の居場所を取り返す為に。

白龍は嬉しそうに龍王にすり寄る。
白龍とは肌を重ねる今の行為。
身体の欲求は満たされていく。
白龍の甘い声。
動くたびに声は高くなっていく。
しかし何度果てても、心は満たされる事は決してなかった。
心だけは置き去りのまま。
私の心をも満たしてくれるのは、やはり翡翠だけだ。
分かっていながら身体は、また次の欲望を生み出す。

狂おしい嫉妬が龍王の未来を曇らせた。
それが、この先さらに哀しい事実が待っていようとは思ってもいなかった。
暗い闇の中。
一つに溶けあった影。
龍王と白龍の熱い吐息が溶けていく。