わざとらしくその腕に絡まると、神藤さんはわずかに口元を引き攣らせた。

見えないところで舌を出してやり、形勢逆転に勝ち誇る私。


そんな私たちの無言の攻防に気付かない店員は、



「ご結婚おめでとうございます」


と、声高らかに言うので、思わずふたりで笑ってしまった。



どうやら傍から見ると、私たちは素敵な新婚さんらしい。

当然だけど、誰も偽装結婚だなんて疑わなくて、それがすごくおもしろかった。


最初は世間を騙すなんてと思っていたが、今は何だかゲームでもしているみたいなワクワク感がある。



「新婚旅行は世界一周クルーズの旅がいいわね、ダーリン」

「ははは。きみとならどこに行っても楽しめそうだ」


言いながらも、神藤さんの目は笑っていない。

私は噴き出しそうになる口元を押さえながら、必死で笑いをこらえていた。