はっきりと言い放つ私に、神藤さんは困ったように少し笑った。


静寂。

薄暗くて、そして普段はあまり立ち入らない神藤さんの部屋で、ふたりきり。



「悪かったな」

「え?」

「キスしたことだよ。まだちゃんと謝ってなかったなと思って」


急にその話題を持ち出され、私はひどく驚いた。

神藤さんはそんなこと忘れているんじゃないかとすら思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。


やっぱりきちんと話をしなきゃいけないなと思い、私は息を吐いた。



「あの日、どんな言い訳を用意してたの?」

「言い訳っつーか、お前のこと好きだって、ちゃんと伝えたかったんだ」

「……え?」


聞き間違いかと思った。


好きって?

神藤さんが、私を?



「冗談じゃなくて?」

「こんな冗談言って、誰が笑うんだよ」


それはそうかもしれないけれど。

思わず聞き返してしまった私に、神藤さんは、不貞腐れた子供みたいな顔を背ける。


しかし私は、喜ぶより先に、まさかの言葉にひどく頭が混乱していた。



「え? ちょっと待って。嘘でしょ? いつから? そんな素振り、まったくなかったじゃん」

「わりと早い段階で思ってたけどな。なのに、お前は人の気も知らないで、酔っ払って抱き付いて寝落ちするし、まだ美嘉のこと好きだとか思ってるし」

「だって、それは、私たちはただの偽装結婚ってだけだと思ってたから」

「だから、俺からそれを言い出したのに、都合よく好きになったとか言えないだろ。結局はヤリたいだけかって思われたくなかったし。拒否されてこの関係が終わるのも、色々と困るからな」