上がる悲鳴。
 だが勝負はあっさりと決まる。――男の鼻面スレスレに彼女の剣先があった。
 男は顔面蒼白、微動だに出来ずにいる。
 すぐ真横で見ていた私でさえ彼女がいつ剣を抜いたのかわからなかった。

「だから言っただろ。この姉ちゃんは歴戦の1stだ。3rdになりたてのお前が敵うわけねぇだろーが」

 呆れたように言う店主の前で、男は武器を落としヘナヘナと力なく座り込んでしまった。
 結局男は彼女に傷一つどころか触れも出来なかったのだ。

 ぱちぱち……と、どこからともなく上がる拍手。

「いいぞーネェちゃん!」
「かっこいい~!!」

 静かだった朝の町が俄かに盛り上がりを見せた。
 そんな中男は小さくなりながらそそくさと立ち去っていく。

 私も一緒になって拍手をしていると、剣を収めた彼女と目が合ってしまった。
 思わずドキリとする。
 すると彼女は少しだけ口の端を上げすぐに踵を返した。

 店主の脇を抜け店内に戻っていく彼女を見送りながら、

(今、笑ってくれたんだよね)

なんだか嬉しくなった私はそのままの勢いでラグに言う。

「ラグ! 今の女の人に決定だね!!」
「あ? あぁ……他にいなかったらな。ったく、余計な時間食っちまったな」

 ラグは面白くなさそうに言って、改めて店の扉を押した。



「おう、昨日の」

 私達を見てすぐに店主が声をかけてきた。
 店内の椅子には昨日と同じように数人の男達が腰を下ろしていた。
 皆、私達の前を行く赤毛の彼女に注目している。ある者は好奇の目、ある者は畏怖の目で。

「運が良かったな。彼女が1stだ。実力は……まぁ今見たとおりだ」

 と、椅子に座ろうとしていた彼女が気づいたようにこちらを振り向き、その視線が私、ラグの順に移動する。
 だが、ラグはその視線をついとかわして店主に言った。

「他に1stは?」

 その言葉に私は慌てる。
 まさか本人を目の前にして本当に訊くとは思わなかった。

 店主も怪訝そうに眉を寄せる。