手を止めゆっくりとこちらを振り向いた40代ほどの主人。
 後ろの男たちに負けず劣らず体格が良く、しかも強面で迫力があった。
 なんだか前も後ろも屈強なレスラーたちに囲まれてしまったようで息が詰まる。

「希望のクラスは」

 無愛想な低い声で訊く主人。
 瞬間学校で言う「クラス」が頭に浮かんだがすぐに思い直す。おそらく階級のことだろう。
 ラグは後ろの男たちを一瞥して言う。

「この中で一番強い奴は?」
「そりゃぁ断トツこの俺様だ!」

 主人が答えるよりも早くひとりの男が威勢よく立ち上がった。
 大きな剣を背負ったその逞しい身体にはいくつもの古傷が刻まれ、いかにも傭兵といった風貌だ。

「何言ってやがる! この中じゃ俺が最強だろ!」
「ふざけるな! お前つい最近2ndになったばかりだろうが!!」
「てめぇら俺を忘れてねーか!?」

 続いて一人また一人と立ち上がり凄まじい形相で睨みあう男たち。

(こわい~!)

 一触即発ムードに私はごくりと喉を鳴らす。だが、

「煩ぇぞお前ら。やるなら外でやれ。決めるのは俺だ」

主人が良く通る低音で静かに一喝すると、男たちは渋々と座りなおした。

 どうやら主人は男たちに一目置かれているらしい。でなければこんな店やっていけないだろう。
 私はほっと胸を撫で下ろす。
 フンと満足げに鼻を鳴らした主人はラグに視線を戻した。

「生憎と今ここには2ndと3rdの野郎しかいなくてな。見ての通り皆同じようなもんだ。すぐに発つのか?」
「いや、出発は明朝だ」
「なら明日また出直すといい。運が良けりゃ1stが戻ってきてるかもしれん」
「わかった」

 ラグは頷くと踵を返し扉に向かった。
 私も慌てて後を追う。……視線がすこぶる痛かった。