と、呆然と一部始終を見ていたもう一人の男が、自分に向けられたラグの視線に気付き、ひっと情けない悲鳴を上げた。

「お前が、ここの責任者か?」
「は、い、いえ、次の連絡船で総督が来られるはず、です」
「その連絡船はいつ着く」
「お、おそらくもうそこまで来ているはずで……は、早ければ明朝には……」
「なら、そいつにこいつのしたことを全て話せ。放火に暴行、それとストレッタに対して吐いた暴言、全部だ。わかったな」
「は、はい!」
「それまでこいつは逃げないように縛ってどこかに転がしておくんだな」
「はい!」

 ラグの言うこと全部に、まるで小さな子供のように頷き返事をする男。
 そして、ラグは最後付け加えるように告げた。

「それと、今後同じことが起きないよう、派遣する人間は十分厳選するようにと伝えておけ」

 私はハっとして、男に背を向けこちらに歩いてくるラグの顔を見上げた。
 そこからは何の感情も読めなかったけれど、彼は、もうこの国にカルダのような最低な人間が派遣されることのないよう、言ってくれたのだ。
 そしてその言葉にも、男は大きく返事をしたのだった。

「戻るぞ」

 傍らを通り過ぎざま短く言われ、私は戸惑いながらも頷きそれに続いた。
 家を出てからもう一度振り返ると、男は未だ怯えた顔でラグの背中を見つめていた。
 外はまだ雨が降っていたけれど、先ほどより弱まった気がする。見ると、海の向こうの空が少し明るくなってきていた。

 きっと、もう間もなくこの雨は止むだろう。



 私は濡れて固くなった砂浜を再び歩きながら訊く。

「ねぇ、ちゃんとその連絡船が来るまで、カルダ見張っていなくて平気かな?」
「平気だろう」

 答えてくれたのはすぐ後ろにいたセリーン。

「カルダは気付いていなかったみたいだが、もう一人の男は確実に気付いていた」
「え?」

 セリーンの視線が私からラグへ移る。
 その目は鋭く細められていた。

「ラグ・エヴァンス」

 セリーンの通る声にラグが足を止めた。

「まさかとは思っていたが、貴様があのラグ・エヴァンスか」