しかし焦ったのは私だけではなかった。
「お、お前何を!? この人は、あの――」
後ろで倒れていた男がカルダを制止するように何か言いかける。だが、
「うるっせぇ! こいつら皆殺しちまえば、真実も消えてなくなるぁああああああ!!!」
カルダはそう叫びながらナイフを振り上げこちらに向かってきた。
こんな至近距離では術を使うヒマもない……!
「セリーン!」
助けを求め、私を庇うように前に出ていたセリーンの腕を掴む。だが彼女は動かず、ただ涼しい顔で彼らを見つめるだけだった。
ドンっと鈍い音がその場に響く。
恐る恐る視線を戻すとカルダはまだナイフを振り上げた格好のままだった。だが、その目は大きく見開かれ、だらしなく開いた口から掠れた呻き声が漏れた。
手からナイフが零れ落ち、乾いた音を立てる。
ラグが離れると、支えを無くした身体はゆっくりと崩れ落ちていった。
(し、死んじゃった?)
だが、ラグの左手に握られたナイフに血は付いていなかった。
おそらく、ナイフの柄でカルダのナイフを防ぎ、鳩尾に強烈な右拳を打ち込んだのだ。
これまで何度かラグの闘い方を見てきたけれど、とにかく彼の動きは素早い。今も、カルダのナイフが振り下ろされるより早く、その懐に飛びこんだのだろう。
どう見ても体格では相手の方が勝っているというのに。
――やはり彼は、とんでもなく強い。
右手に持ち替えたナイフを鞘に仕舞い、彼はもう一度気を失っているカルダを冷たく見下ろした。
ずっと響いていたはずの激しい雨音が、思い出したように耳に入ってくる。



