そう、今この国の皆が直面していることは、少し前の地球――私が生まれた日本も例外ではなく行なわれていたことだ。
 そういった世界の歴史をそこまで熱心に勉強したことはなかったけれど、でも繰り返してはいけない過ちだということだけは理解していた。

「確かにこのレヴールがカノンさんの住む世界のようになったらどんなに素敵でしょう。……しかし、カノンさん!」
「やっぱりライゼちゃんはカルダに会ったらマズイよ。これからのことを考えてもさ。だから、ライゼちゃんはカルダのことよりも、村の人たちを安心させてあげて!」
「カノンさん……」

 私は笑顔で続ける。

「もし話してもダメだったときは歌があるし! ほら、前にランフォルセで、なんて言ったっけ……カルダみたいに暴力的な兵士のやる気をなくしちゃったことあったでしょ? あの歌をまた歌えばさ」
「アホかてめぇは!!」

 そう私に向けて怒鳴ったのはまだ小さい姿のままセリーンに後ろから抱きしめられているラグだった。
 そんな状態で怒られても、いつものような威圧感は全く無い。
 それでもラグは顔を真っ赤にして怒鳴り続けた。

「あんなマグレみてぇな歌が何度も通用するか! お前は何でもかんでも甘く考え過ぎなんだよ!!」
「私も行こう」
「んなっ!?」
「セリーン!」

 セリーンが笑顔で言ってくれて私は目を輝かせる。
 だが彼女の視線はすぐに腕の中の少年へと移った。

「どうせ、なんだかんだと言いながらお前もカノンと行くつもりなのだろう?」
「は!? 誰が行くなんて」
「置いていかれると焦るくせになぁ。全く可愛い奴だ。言ったろう? お前が行くところ私はずっとついていくぞ!」
「意味わっかんねえええええええ!!」

 ラグの幼い怒声がまたしても辺りに響き渡った。
 良くはわからないが、ラグも来てくれるということだろう。二人が一緒なら怖いものなんて無い。
 私は二人に、ありがとうとお礼を言った。……聞こえているかどうかわからなかったけれど。